第317話養和の大飢饉② 方丈記より
(原文)
京のならひ、何わざにつけても、みな、もとは、田舎をこそ頼めるに、絶えて上るものなければ、さのみやは操もつくりあへん。念じわびつつ、さまざまの財物かたはしより捨つるがごとくすれども、さらに目見立つる人なし。たまたま換ふるものは、金を軽くし、粟を重くす。乞食、道のほとりに多く、憂へ悲しむ声耳に満てり。
(意訳)
京の街のあり方としては、何事につけても、すべての物資を、地方に頼っているのだが、その地方の物資が、全く京に入ってこなくなった。
したがって、京の人たちは、今までのように体裁をとりつくろうことなど、できるわけがない。
結局、こらえきれなくなって、申し訳なく思いつつも、様々な財物を片っ端から売り捨て、食べ物と交換をしようとするが、そんな財物などに関心を持つ人はいない。
たまに交換してくれる人は、財物の価値を安く見積もり、粟の価値を高くする。
そして、乞食が道のほとりに多くなり、いたるところから憂い悲しむ声が耳に飛び込んでくる。
それでも粟に替えうる財物があればいいけれど、何も無い人は乞食となる以外にはない。
そして、ついには、道端で死すことになる。
絢爛たる僧衣を身に着け、豪華な車に乗った旧来の仏教に属する優秀な僧侶たちは、何をしているのか。
法然の心は、おそらく、庶民の死者の弔いなど全く関心がない南都北嶺の高僧たちへの絶望感と、同じく無力な自分自身に打ちひしがれていたのではないかと思う。
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