第21話 40年目の真実
これが八重子のデビュー作、
感嘆たる思いで見つめる広隆。
「この本は、10万部の売り上げが
あったんですよ」
「へー、流石八重子さん」
しかし、これは過去の遺物だ、
千春の瞳にも光るものが。
「失礼ですが、お母さんは病気で?」
「胃癌でした、けれども母の人生は
幸せだったと思います」
正直、今だに信じられない、
八重子が死んだとは。
そう思いながら何気無く裏表紙を見ると、
八重子のサインが書かれてある。
それを見た瞬間、唖然とする広隆。
「こ、これは?」
そこには・・・
『赤松千春へ』
衝撃的な事実に、広隆の両手が小刻みに
震え出す。
「どういう事なんですか?・・・まさか」
一瞬、視線を逸らした千春が、
再び彼を見つめ。
「私は、赤松浩二の娘です」
「な、なんだって!!」
咄嗟に広隆がソファから立ち上がり、
彼女を上から見下ろす。
「まさか、浩二と!」
「貴方が失踪したあと、母は毎日泣いて
いました。
母はあなたを、心から愛していたからです。
でも最愛の恋人はいない、そんな母を
不憫に思い寄り添ったのが父である
弟浩二さんだったのです」
千春の言葉に釈然としないまま、腰砕けの
様に勢い良くソファに座り込む。
「信じられない、八重子と浩二が・・・結婚!
てっきり薬屋の御曹司と結ばれたと
思っていたのに・・・
誰よりも、八重子を愛していたのは僕なんだ。
千春さん、浩二は何処だ!!」
叔父の問いに、千春が首を横に振る。
「もう、この世にはいません。
1985年の日航ジャンボ機123便に
搭乗していた父は、飛行機の藻屑となって
消えてしまいました」
「まさか浩二が・・・この世には!?」
「乗員乗客500名の犠牲者の中に・・・」
眼を見開いたまま、微動だにせず。
「僕の知らない未来に、そんな恐ろしい
出来事が」
「私は1984年生まれでしたので、
殆ど父の面影など分かりません。
その後の母は再婚する事無く、必死に
小説を描きながら、私を育ててくれました」
水を打ったように、静まり返る室内。
「それで、僕をあっさりと自宅へ
招き入れてくれたのですね」
広隆の言葉に、薄っすらと涙を
浮かべながら頷く千春。
「彼女は僕の姪っ子、僕自身の未来が
これ程呪われたものだったとは」
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