第16話 2017年

時間が経つ程に、やっと広隆にも


万引きという罪の意識が芽生えていた。


「だいぶ反省しているようだしもう帰って


いいよ、身内の方から連絡があって是非とも


君を引き取りたいとの、申し出があった。


・・・二度と万引きはやるなよ!」


優しさから一転、鬼の形相で睨みつけてくる。


「身内とは誰ですか?」


てっきり広隆は、弟の浩二と考えた。


「確か、青木千春とか言ってたな」


「青木千春?」


巡査長の言葉に、動揺が隠せない広隆。


「八重子の娘・・・何故、垢の他人が?」


「親父さんが国家議員だったんだが、


飛行機事故で死んじまってなぁ、作家の


お袋さんが大事に育てた娘だ。


その娘も作家で、地元では有名な人物だ」


その時だった、交番の扉が開き若い女性が


外から入って来た。


紛れもなく、青木千春だった。


良く観ると、顔や女性らしい仕草など、


最愛の八重子そっくりだ。


「お世話になりました」


千春がしなやかに挨拶する。


「お待ちしておりました、私はここまで・・・


あとはお願いしますよ」


鬼軍曹と思われた巡査長が一転、


にこやかに微笑む。


広隆も席を立ち、彼女と一緒にコウベを垂れ、


交番から出る。


「ありがとうございました、だけど


どうして僕がここにいる事を?」


堰を切ったように、慌てて尋ねる。


既に外は暗くなっていて、一日の終わりを


迎え様としていた。


「車のライトが眩しい・・・」


同じ国なのに僕の知らない世界、


僕の知ってる東京とは違う・・・


それは、空気まで・・・


彼の問いに、千春が微笑みながら。


「お母さんの小説に、全部描いて


あったんです」


「八重子さんの小説、どういう意味ですか?」


思わず、広隆がキョトンとして


その場に立ち止まる。


「40年前に母が描いた小説に、貴方の未来が


詳しく描かれていたんです」


「僕の未来・・・」


彼には、まだ千春の言葉を掌握することなど


不可能と考えた。









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