第15話 2017年

交番に到着すると、派出所内のパイプ椅子に


鎮座するよう強制される。


そんなに広くはない室内を見渡したところ、


壁にかけられたネームプレートが目に付く。


それ程大きくはないが、プレートには


黄色虎吉(きしきとらきち)巡査長と


書かれてある。


恐らく目の前の警官の名前だろう、


先程の初老巡査長が席につく。


派出所内は10畳程のスペースで、


机がひとつだけ置かれてある。


どうやら巡査長が調書を取る様だ、


なぜか若い警官が何処にもいない。


「君の住所はどこ?」


「品川」


「大学生?」


「去年、卒業しました」


巡査長が、ひたすら調書に記入している。


「去年という事は、2016年?」


「違います、1977年です」


その瞬間、警官のペンがピタリと止まる。


「馬鹿言っちゃいかんよ君は、


現在は2017年だよ!


からかうのもいい加減になさい」


「だから僕は、1978年から来たんです!」


「君は正気かね、良い病院を紹介しようか」


含み笑いを浮かべながら、巡査長が冗談


混じりに喋った。


「金が無ければ貸そうか?」


憮然とする広隆に対し、早期解決を考え


財布を取り出す。


万札を一枚だけ抜きとり卓上に置くと、


それを観た広隆が。


「これはニセ札じゃ?」


「馬鹿もん! 本物だ」


黄色虎吉が、一喝する。


「なんで、福沢諭吉が・・・」


広隆が小さく呟く。


「君、さっき万札持ってなかったか?」


彼が頷き、財布ごと巡査長に渡した。


早速、中身を見る定年間近の初老の男。


「これは、中国マフィアから手に入れた


もんじゃ無いだろうな」


その途端ドスの効いた低音ボイスの持ち主、


巡査長の言葉に慌てて広隆が否定する。


「それにしても懐かしい、1984年からだから


かれこれ30年前にもなるかなぁ」


長い人生に疲れたのか、いつまでも


旧紙幣をマジマジと見ている巡査長。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る