第9話 2017年

此処は何処だろうか、そしてどれ程の


時間が経ったのだろうか。


広隆の目が覚めると、辺りには枯れ草が


所々生えている。


目の前には、川も流れている。


どうやら、河原の土手の上で眠って


いたようだ。


空には雲ひとつ無い、真っ青な青空が


拡がっていた。


それにしても寒いのなんの、


思わず身震いを覚え、脚をバタバタと。


ジャンパーよりもコートが欲しい。


「僕が交差点で信号待ちしている間に、


トラックが突っ込んで来て・・・」


ぼんやりとしながらも、少しづつ


記憶が蘇って来ていた。


そっと上半身を起こし、取り敢えず


両手両足を確認する。


「何とも無い、悪夢を見ていたのか」


両手で膝を摩りながら、確かめる様に


そっと立ち上がってみると、


痛くも痒くも無い。


その途端、安堵の気持ちに包まれた。


ホッとしながらも、傍に立っていた


看板を観たところ、一級河川荒川と。


「いつの間に、こんな所まで」


疑問に駆られながらも、取り敢えず


歩を進める広隆。


それにしても寒い、自分は何しに出て来たのか


必死に記憶を手繰り寄せる。


すると、徐々に八重子との再会を思い出す。


「彼女の住所は、新大久保駅前」


JR山手線に乗り新大久保駅を目指すと、


途中車窓から奇妙な物が観える。


「あれは、何だろう?」


東京タワーは何度も観ているが、それよりも


高いタワー。


東京タワーよりも遥かに高い、


てっぺんが雲に届きそうな位置にあり、


つい見上げてしまう。


そして、新大久保駅に到着したところで


駅前に出る。


先程から彼にも気になっていたのだが、


みんな何か変な物を右手に持ちながら、


一生懸命覗き込んでいた。


そう云えば、電車内でも殆どの人達が


俯いたまま、手鏡を見ていたのだ。


「おかしい、この人達はいったい・・・」


広隆には一切意味が分からない、


ひたすら首を捻るばかり。

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