第6話 1978年

テレビの歌番組では、ピンクレディーや


沢田研二が次々とヒット曲を飛ばしており、


その人気は凄まじい。


どちらかと言えば、彼はキャンディーズが


好きだ。


キャンディーズの曲をラジオから流れてくる


音を、カセットテープにエアチェック録音


していた。


現在、ハイポジションテープは


一本1000円はする。


この先、メタルテープが販売されれば


一本2000円はするだろう。


それを考えると、アナログレコードの


ドーナツ盤を購入した方が得策だ。


それにしても、オランダ・フィリップス社で


開発されたカセットテープが日本で大幅に


進化。


最初、酸化鉄しか塗られていない


ポリエステルテープに


錆てない純鉄粉を塗布する事によって、


大幅に音レンジが拡大した。


それにより、かなりテープ独特のノイズに


悩まされる事が少なくなった。


気軽に高音質の音楽を録再出来る事から、


オーディオマニアだけだったツールが、


大衆の心をも掴んでしまった。


その立役者が、『ウォークマン』。


1秒間に4.8センチしか進まないテープ、


それなのにこれ程の高音質、数ミリ幅の


鏡面仕上げによる真っ黒な磁性体テープの


どこに、音信号が潜んでいるのか興味深く


見つめていたのも事実。


本日発売のキャンディーズの新曲が録音された


ドーナツ盤を宝物の様に自宅に持ち帰ると


手紙が一通配達されている。


送り主は、青木八重子(あおきやえこ)。


八重子とは大学の同期で、文学サークルに


所属していた縁によって付き合い始めた。


同じ文系同士、妙に気があった。


彼女の存在が、空気の様に思えた。


文学部時代から既に八重子は、大手出版社募集


の公募にオリジナルの小説を応募したところ、


新人賞に最終選考まで残った。


残念ながら新人賞は逃したけれど、


ファイナル選考まで残った実力が認められ、


出版社と契約しプロ作家に。


2作目の書き下ろし小説を出版したところ、


ジンクスを打ち破って10万部を越える


ヒット作となった。


現在では、芥川賞最有力候補と目されている。


彼女がいたから僕も・・・新しい


目標が出来たのは嬉しかった。


おもむろに広隆が封を破り、中身を抜き出すと


一枚の便箋が。


その便箋にはビッシリと小さな文字が


描かれており、神経質さとマメさが伺えた。


感受性が強くどんな事にも機敏に反応する女性


だからこそ絶対的な潔癖性と自由な


妄想癖に長けている。


発狂しそうな苦しみともがき、その中から


僅かなアイデアを絞り出す。


豊潤なる湧き水を渇望しながら、


その手が届かずに彷徨う事となる


定めの星。


夢や希望は沢山あるばかりに、


未来が見えぬと鳴くヒバリ。

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