第5話 1978年
「もう、就職は諦めた」
そう思うと、なんだか肩の荷は
軽くなっていた。
しかし、1歳年下の弟は20歳で短期大学を
卒業し、弁護士事務所に就職した。
弟、赤松浩二(あかまつこうじ)の
夢は政治家だ。
これには父も大変喜んで、いよいよ赤松家から
政治家誕生に、鼻高々である。
それに比べ長男である広隆には、親から
冷やかな視線が向けられていた。
昭和53年、成田空港が開港すると同時に
60階建てのサンシャイン60も
完成している。
外国では、1954年に設立された
ヨーロッパ素粒子物理学研究所CERN(セルン)
が本格始動して、日本も利用国メンバーに
認定された。
新素粒子ニュートリノ発見に向けて、世界中の
物理学研究所が凌ぎを削る事となる。
いよいよ世の中がバブルに突入しようと
していた時期、未来が明るい空気が
日本全体を覆っているようだ。
けれども、彼にとってそれはひとり時代に
取り残された気分。
出版社の帰り道、なんとなく寄り道しようと
原宿竹下通りに行ってみると、
独特な衣装を身に付け、大勢で踊っている。
周囲の人達は皆、タケノコ族と呼んでいた。
ピンクや紫の色鮮やかなコスチュームが
周りを華やかに視界を和ませる。
「わー!とってもナウい」
傍にいた女子高生が、声高らかに叫ぶ。
現在、若者中心にダサいやニャンニャン
という言葉が大流行。
そのタケノコ族と同時期に登場したのが
ディスコファッション。
それに身を包んだ若い女性が、
街中を闊歩する。
彼女達にとってウォークマンは
欠かせないアイテム、イヤフォンを
装着しながら歩く姿はカッコ良くも、
ある種のステイタスが垣間見える。
もうすぐ、カセットテープに初めて
メタルテープが発売されるそう、
どんな音がするのかいまから楽しみだ。
時代の流れと言ってしまえばそれまでだが、
その時代に乗れない自分。
いつも、広隆には焦燥感が漂っていた。
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