第3話 1978年

赤松広隆は、25歳の就活浪人。


大学を卒業したものの、内定は中々


決まらない。


昨年、大企業の内定が決定した直後、


1973年にオイルショックが勃発した為に


あろう事かその会社が倒産してしまったのだ。


「石油如きに、日本経済が


揺さぶられるのか!」


広隆の父が悔しさを滲ませながら、


吐き捨てた。


「父さん大丈夫だよ、田中角栄総理大臣が


イランに石油輸入交渉に行ってるから」


この時は、広隆も楽天的思考。


「日本経済最大の弱点は、


資源が無い事か・・・」


父が寂しそうに苦笑。


「しかし、イランは核開発を急いでる国だ。


そんな国から油を買えば、


アメリカ政府が黙ってない!


今に大変な事になるぞ」


父の予言通り1976年にロッキード事件が


発覚、田中総理は現役のまま検察によって


逮捕され、表舞台から姿を消すに至った。


この政界疑獄が、アメリカ政府の


陰謀とも知らずに。


奨学金で大学院という選択もあったのだが、


広隆には作家の夢があった為に、


就活浪人という高等遊民の道へ。


はじめは父も渋い顔だったが、最終的には


息子の意見を受け入れてくれた。


そんな事もあって、親に恥をかかせる訳には


いかない。


その為、実家を離れて車で30分程走った


所のアパートに引っ越す。


ある日、実家に戻ると父がFM雑誌を


開いていた。


オーディオマニアだった父は、記事にある


オーディオ評論家長岡鉄男氏の機器批評を


熱心に眼を通していた。


長岡先生には説得力があり、的確と


具体的な解説は誰よりも、分かりやすかった。


『ハイCP機』 これが父の口癖。


長岡鉄男先生を、神の様に崇めていた父。


所有していたのは、マッキントッシュのアンプ


スピーカーはJBL 4343。


いずれも、コンクリートブロックを下敷きに。


広隆が、オルトフォン製のカートリッジを


プレゼントしたところ、大変父が喜んだ。







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