第10話 暴動
「なぜ」
つい出た言葉。後悔。私は俯いて踵を返した。彼の呼び止める声も聞かずに。
ますますひどくなる周りからの当たりを、誰にも告げずに耐えていた。あの日までは。
「なあ、もう、飛べる」
「え?シロ、大丈夫ですか? 」
あの人と保護した龍は人型となってニヤリと笑った。私に甘え声で抱きつく。もう、大丈夫、か。私は嬉しくも寂しさを感じた。
「行くの・・・・・・」
「ん! 」
寂しさは耐えてきた。だから私は無理やり笑った。龍の姿となったハクをカバンに連れ込み、姿が見えぬよう二重の魔法を掛ける。
嫌ならいてもいいよ、の言葉に首を振り。早く仲間の元に帰りなと促し。外に出ようとした時だった。
「宰相様? 」
青ざめた顔で私の腕を引いて行く。私の部屋へ入るや否や、すまぬ、と土下座した。
「お前の隠し事がバレてしまった。早く龍を隠せ。お前が殺される。私では庇いきれない」
あっけにとられて返事もできず、へたり込む。知られていた?なぜ?
「隠し事をしているのに気づいてはいたんだ。最初から。だが、部屋を密かに覗けば楽しげにしている。邪魔などできぬし、研究なんぞ、そんな姿みたらもってのほかだろう。だから、厳重に秘匿したのに・・・・・・すまぬ」
知られていたことも信じられず、私は天を仰いでいた。今、放せばすぐに龍のハクは捕まるだろう。
どうしたらよい?
私はしばし虚空を見つめた。
「すいません。いくつか用意、できますか? 」
スッと心は定まった。この子を龍の姿にしなければよい。人型になれるとバレなければよい。
宰相様に連れられて屋敷から踏み出せば、人の海が押し寄せていた。人々は正気を失ったように私に掴みかかる。
痛い。
「辞めぬか。狼藉をするな」
宰相様の声も魔術も間に合わず、おびただしい魔力の豪雨が降り注ぐ。本で読んだ最小限で防ぐ、風魔法と土魔法を融合したトリッキーバリアを張りながらも、いくつかは私の体に傷を作った。
さらに防げないのは、格闘しようとする手足。みぞおちを殴られ、息ができなくなった瞬間。幾重にも魔力の束が体に突き刺さった。
いつの間にか宰相様から離れた。私のみになった途端、暴動は加速して行く。
そうだ。竜は、ハクは、帰れただろうか。
私は泣き出しそうな空に投げ出された。
「ねぇ、そろそろ辞めよ」
幼い声に暴動はピタリと止まる。唇を噛む。
エドアール様。
「辞めなよ。ねぇ、それで僕に龍、ちょうだい? 」
そんな簡単に止まるもんか。
貴族兵どもは慌てて退いて行った。しかし、薄汚い服の連中ややたら派手な服の奴らは唾を吐き散らして鼻で笑った。
「王子様ってのは甘いねぇ」「一生、働かなくともいいって財産なんざ、くれねぇじゃねぇか」「俺らを見下しやがって」「一生に一度」「金欲しいんだよ」「あんたの命令なんざ聞くか」
やっぱりな。自分さえよければ。
エドアール様の悲鳴とお供の慌てる声と同時に私にも暴力が降り注ぐ。光さえ消えた。
遠ざかる意識にあの人の後ろ姿が映った。
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