第9話

貪欲に本の群れへ身を投じるある日。妙な文章にあった。


我らは全ての人に魔力はある。強弱はあれども。


私は眉根を寄せた。確かに今まであった人の魔力は微弱ながらある。ある人を除いて。その点において、反論したい。だが、誰にしたら良いのか。


「フィル、最近元気ないがどう・・・・・・。ああ、それを読んだか」


「宰相様」


背後からかけられた声は震えていた。


「あの、すべての人に魔力はあるのでしょうか?」


「いや、ま、それは」


言い澱み、震える声に疑問が渦巻く。


「では、彼の方は全くないわけではない?いや、王族ですよね?私などでは手が届かない魔力増幅の腕輪がありますよね?あれを使ってみてないのですか?効果は絶大でしょうに。全くない人なんているのですか? 」


「あ、いや。また、話す。今は・・・・・・いや、今が良いか」


観念したようにため息をつかれた。宰相様から伝えられた秘密、それはますます彼に近寄りがたくなるものだった。


私は、いつしか、彼を、ラムチェルド様を避けるようになった。



遠くから見るたびに私は胸が痛くなる。側にいるべきか否か。いや、今私は力をつけてなんの役に立つのか。


年が開けるとますます顔を合わせなくなってしまった。彼が、王族としての仕事を始めたから。そう言い訳をしながら、離れてしまった。


季節はすぎ、新たな新入生を迎えた。絶対権力者が入れば、その人についてしまう。



「お主、あの男と仲が良いとかいう。あの男なぞ、なんの出世にもならんぞ。庶民なれば、出世にも興味あろう」


「お断りいたします」


「なんだと?この方をなんと心得てるんだ」


グリスティン家の嫡男は口を歪めて罵った。


「王の第2王子、エドアール様だぞ」


蔑んだ目は私の心を冷やした。あの方とは違う。居場所なくとも、あの方がよい。出世にも興味ない。


その日から、私には居場所がなくなった。


物がなくなるのは当たり前、以前以上に休憩中に訓練と称した魔術の集中砲火を浴び、何度か暴走しかけた。エドアール様が率先しておこなうものだから、皆も従う。暴走しかけたびに、エドアール様の幼い嘲笑が耳についた。


幸い、私は魔力を鎮めることが得意であり、なんとか耐え抜いていた。いや、耐えているうちに少ない魔力で身を守れるようにまでなった。


そんなある日だ。放課後、急いで荷物をまとめ、帰路に就く道を小走りでいく。当然のように魔力の的となって、避けきれず体に当たり続けた。



「久しいな。元気だったか? 」



突然、魔力の集中砲火が途切れ、1人の声だけ明瞭に聞こえる。


腕にも顔にも包帯を巻いた彼、ラムチェルド様が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る