第8話
庇護下の身となってから、学校とお屋敷の往復で日々が流れた。教室での差別は続いていたけれども、もう慣れたものだ。それよりも何ヶ月、ラムチェルド様と話していないだろうか?
お互い仲違いはしていないし、気まづいわけでもない。ただ、話さなくなってしまった。時間がなくなったなどと言い訳をしつつ、時は過ぎていく。彼の方と話さなくなったのはいくつか思い当たるところはあった。
彼の方の側にいて力になれるように、彼の方のできぬことを肩代わりできるように、私は知識の山に飛び込んだ。学校の図書室へ引きこもることも多くなっていた。それだけじゃ足りなくなると、宰相様は王室の書庫へ従者として連れて行ってくださった。
「中に入れば一応自由にみても良い。禁書の札が貼ってあるもの以外な」
条件さえ守れば自由。だからこそ最新版から古書までも片っ端から読破した。
「お、複式魔術の古書ですか。訳本とはいえ、難しいでしょう」
「いや、もうすぐ読み終わります。しかし、誤訳も複数あるものですね。これじゃ、使えないですよ。例えば、土魔法で落ちぬよう強化された風の絨毯魔法の項では」
「いや、待ってください。古書自体も読んだのですか?そんなに人は早く読め・・・・・・いや、まだ、私が少し教えただけの古文字を、なぜ? 」
「そんなに難しいですか。文字へ触れて魔力を流したら読めますよ?」
「は?え?・・・・・・特殊魔法か。その一言、学者に言ってはなりません。あなたが研究対象として人間として扱われなくなってしまう。私とあなたの秘密です」
宰相様とだけの秘密ができたからか。
あと一つ、私だけの秘密があった。
メイドも執事も側にいないと確認し、私の部屋の扉をそっと開ける。そこには一人、少年がいた。
「遅いぞ。フィル。お腹空いたぞ」
「ダメですよ。あなたはいないことになっておりますから」
「小言なんざ、いらぬから、はよう、スープをおくれ」
仕方ないと首を振りつつ、魔法瓶へ入れたスープを広い皿へ入れて、少年へ渡す。嬉しげに食べる姿は可愛らしいけれども、少年の容姿は人間離れしていた。
真っ白く透き通る肌は別としても、鱗が一部浮かび、頭にはツノが生えている。爪も鋭く伸び、切れ長な瞳は蛇の金の瞳だ。
そう、彼はあの日保護した龍だ。
「で、お前は我をどうする気だ」
「元気なら帰ります? 元々、ラムチェルド様が怪我をしたあなたを保護しただけですし」
「恩くらい返させろ。我ら一族は金になるだろ?特に龍人族は」
「はいはい。戯事はそれくらいにして、そろそろ私の食事の時間が迫りますので」
部屋から出る。ため息を出した。こんなこと、人に言えるわけないだろ。早く、力を身につけなきゃならない。早く、身分差を覆えるくらいの。
「金の瞳と銀の瞳、あの伝説は誠のようだな」
孤独の部屋で龍はひとりごちた。
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