第7話 庇護下の身
それからというもの、毎日が一変した。その日のうちに宰相様の屋敷の一室を与えられ、自室に遭った荷物がすべて運び込まれた。病室にいた私自身、もう魔力の暴走をしないと目されたのか、屋敷の一室に移動となり、傷が回復するまでは謹慎という処分が下された。話を聴けば、グリスティン少年や取り巻きは全身深手を負い、一時期、意識不明となったという。そして、意識を取り戻すも未だ何かにおびえて暴れ、体の傷を深めてしまっているそうだ。閉じ込められた倉庫は全壊し、その周辺の農地も農家もほとんどが使い物にならなくなってしまった。たまたまダン将軍様の管轄地であったから、対処はできるゆえに心配するなと言われたけれども……。
処刑されてもおかしくない。軽いくらいだ。謹慎だけなんて。
しかも、与えられた一室は私にとって豪華絢爛でしかない。明らかに監視部屋のように監視窓の着いた堅固な部屋ではない。さりとて使用人の部屋ではなく、ふかふかのベッドに高級そうな明かりが備え付けられている。机もシンプルなものであるが細かな彫刻が施されていて明らかに私の身分にはふさわしくない。
恐怖でふるえそうだ。
部屋の片隅にある古ぼけた壺だけが私のよりどころだ。
そういえば。
あの日から龍の姿を見ていない。
傷がほぼ回復したある晴れた日、宰相様が初めて私の部屋へ訪れた。まさか訪問されるとは思っておらず、私は狼狽えながら、部屋の真ん中で平伏した。
「頭下げなくてもよろしい。むしろ私はあなたの師です。訓練などを付けると申したでしょうが。そもそも理論から頭に叩き込んでいただかねばなりませんゆえ、本を10冊ほど持ってきました。すべてここ数年で出された魔力切れに対する研究レポートです。今、あなたがどのような状態なのか知るべきでございます。が。その前に、一つ尋ねてもよろしいか」
私は息を飲んだ。
「グリスティン様の御子息が正気を取り戻しなさった。曰く、『龍を見た』と。真相を確かめるべく、問いただしていたのが、行き過ぎてしまったと。ここで問題となるのは、龍を見た、です。あなたの部屋にいたとのことですが。あなたは何か知っておりますか? 」
「え? 龍……でございますか」
ひやりと汗が流れる。穏やかだけれども眼光鋭い宰相様の問に、どう逃れようと思考の動きを加速させる。バレタライケナイ、イケナインダ。とにかくとぼけるしかない。ボクハシラナイ、ボクハシラナイ。とぼけるしかない。
宰相様は疑念に満ちた目でしばらく私を眺めていたけれども、やがて諦めたのか、ため息をついた。数秒のにらみ合いだっただろう。何分にも感じた。
「知らないならば、知らないのでしょう。」
吐きかけたため息を腹の底に治める。何とかなった。
「龍は知らない、と報告を上げます。龍など居たらよい研究対象だったのですが。生態もそうですし、種別も、空を飛ぶ姿も見たかった。ああ、言ってられないですね。ああ、そうだ。あなたについてですが、フィル君、あなたは監視という名の下、私の庇護下に入っていただきます」
私は庇護下の身となった、らしい。多分口は開けっ放しになっていただろう。その時のことは後にも先にも記憶からぬぐえないほど、衝撃的なことであった。
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