第6話 保護
私は何度打たれ、魔力をぶつけられただろう。初め防げたものさえも、今はもう体当たりしてくる。絶対には龍のことは話さない私にやがて飽きたのか。解放された。痛む身体をひきづりながら部屋へ戻る。
鍵が開いている。その事実に体が固まる。しかしすぐに理由は氷解した。内から扉を開けた彼は、傷だらけの私を見てひどく驚く。
「なんでもありません。いつものこと、ですから」
私は軽やかに笑えているだろうか。彼に不安をかけぬように、今日のことは黙っていた。
彼が帰った後、私は龍の側へ寄ろうとした。火を吐き出し、唸り声をあげる。
「静かに。君を捕らえようとしてる人がいるんだ」
まだ怪我をしている龍を部屋から出すわけにはいかない。だからこそ。
「ばれたみたいなんだ。私の部屋に君がいるって。いない間に何か危険があったら、この、壺へ入って。私の魔力で作ってる。私が死なぬ限り、消えないから。ね、君を守りたいんだ。私も、彼も」
そこで私の視界は暗転。
冷たい床に身体を打ち付ける寸前、誰かに抱きとめられた。
私は布団の上で目が覚めた。身体が全く言うことを聞かない。声も出ないまま、私は動揺した。布団は布団でも寝たことないくらいに上質なもの。横には彼が目を閉じて座っている。その横には、軍事パレードなどでたまに遠くから見る将軍様と宰相様と高名な魔術師様たちが、疲れた顔で立っていた。
「ああ、気がついたのか。暴れやがって」
彼は目を開くなり、私へ咎めるように言う。その瞳は潤んでいた。彼は口を歪め、顔を背ける。肩が震えてる。すいません、私は声に出さずにつぶやいた。
動けない身では平伏も何もできない。おそらく迷惑をかけたはずだ。そうじゃないなら、魔術師たちからの怯えた視線などかけられやすまい。
「気がついたのだな。わしはダンだ。今、なぜこの状況がわからぬだろうがな、簡潔に言う。君は魔力切れからの回復途中に暴走を起こした。簡潔に言う。小さな発作だ。これは初めて魔力切れを起こしたものには珍しくはない。だが、君の場合、初期症状で王子が見つけねば、街が全て壊れるほどの魔力を放ったな、たぶん」
ダン将軍様。将軍家に産まれながら高い魔力を持って、武術と魔力を合わせた戦いをするお方。
「今は高熱が出ておるだけだ。簡潔に言う。今は軽く、魔力を封じてる。わしと宰相殿とな」
宰相様がうなづくのをみて、ダン将軍様は力強く私に言った。
「回復したら戻すと約束しよう」
その言葉を聞いた途端、魔術師の一人が私の首へ紐をかけた。締め上げられる。息ができない。
「回復? ふざけるなっ。危険だ。危険な力なぞ一生、封印せぬならッ 」
ダン将軍様と宰相様の慌てる声。そして白い光の一線に空気が肺に入っていった。
たおやかな体に抱きとめられる。宰相様だ。高貴な方から離れねばと思っても体に力が入らない。咳が止まらない。宰相様は背中を撫でながら、凛と言い放った。
「何をしておるのです。彼は覚えてないはずです。この歳でこの魔力を持っていること、そして暴走したことがないためにこの歳まで魔力を詳しく学び鍛える機会もなかったことを合わせれば、魔力切れなんて経験ないと想像つきませぬか、この、お馬鹿どもは。普段はコントロールできてるものが、初めての魔力切れが原因でできなくなっただけなのに、何が一生魔力を封じろ?馬鹿どもでしかないのですか? あ? 筋肉馬鹿ら、あ、王子のことでは決してありませんよ? 決して。脳筋の筋肉馬鹿らよりもあなたたちが馬鹿なのが納得いかない。ほんと、自信家ばかりでなんもできないおぼっちゃまが増えるのですよ」
「宰相殿、密かにわしも罵倒すんな」
薄眼を開けてみたら、ダン将軍様にひとりの魔術師様が拘束されている。目の前には、小刀を構えたラムチェルド様が私を守るかのごとく、立ち塞がっていた。
「むろん、今回の咎は受けていただきます。私の保護下で魔力切れを起こさないギリギリを知る訓練などを受けていただきます。無論、学校は欠席など許しませんよ? 学生は学ぶのが1番大事ですので。学校には私が派遣する監視員を連れて行ってもらいます。王子の護衛も兼ねてね。文句あります? 文句言ったところで全部論破して潰させていただく所存ですが、何か? 保護下に入ることゆえ、部屋も寮の部屋ではなく、私が突貫で造らせた監視部屋に寝泊まりしていただきます。いいですね」
私を含め、皆うなづくしかなかった。
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