第5話 バレる?

ラムチェルド様は人の目を盗んでは私の部屋に来るようになった。さらには泊まることさえあった。王族であるはずなのに、粗末な私の布団を見て、十分だと言いつつ、私の心配もしてくる。


龍の傷も思ったより早く癒えた。だが、羽が傷ついていたらしく飛び立ちもできない。


どこで買ったのか、彼の持ってきた上等な網かごに綿の詰まったクッションを置いてある上に今は寝ている。いや、寝たふりをしている。彼が近づいても、私が近づいても、龍は火を吹いて近寄らせまいとしていた。


「龍は人馴れせぬとはいえ、決して食べ物を食べぬのは心配だな」


彼と私はあの日からよく図書館へ行っていた。龍に関する本を密かに捜しに。


怪しい情報さえも頼みの綱として実行に移すも全くうまくいかなかった。ため息をつきながら龍を見やるラムチェルドも私も、油断をしていた。



ある日、教室から出て部屋へ向かう途中、呼び止められた。腕を引かれ、人気のない廊下に導かれる。途端、右頬へ衝撃が走った。ジンジンと後からきた痛みが殴られたことを知らせる。


「お前の部屋に龍がいるという、目撃情報を手に入れたのだがね、本当かえ?庶民くん」


嫌味な笑みを浮かべた、クラスで1番の金持ち貴族グリスティン家の息子に、私は腹の底が冷えた。少年は指で指示を出すと後ろに控えていた子分が迅速に私を拘束。口元に布切れを当てられる。


「ちょっと眠ってもらうだけさ。庶民くん、身にふさわしく早く吐いたら、解放することは約束す・・・・・・」


そこまで聞いたまま意識は闇に落ちた。


「はは、寝ちゃったね。ま、吐かなくても、いいさ。たとえ本当に知らなくてもいいんだ。ククッ、目障りくん」




気がついたら、そこは倉庫の中。私は椅子に拘束されていた。鉄を溶かして脱出?いや、そんなことをしたら全身火傷は免れまい。何が目的だ。いや、何か私ははっきりわかっていたつもりだった。


龍を見られた。


自分の身分を初めて呪いたくなった。あの部屋じゃ覗き放題で侵入者なんぞ防げない。噂も広がっているとみて良いだろう。


悔しさに唇をかみしめた。


「やあ、庶民くん、気がついたみたいだね」


私は顔をあげた。ニタニタと私を見るグリスティン少年。少年の手には何故か2本の動線が握られていた。嫌な予感に顔が歪む。彼の魔力は確か。


「早く答えたらね、解放してあげる。でもね、言わないなら」


全身に跳ね飛ぶような痛みが走る。私の手足は痺れて動かない。息を吸うのもやっとだ。


「おっと、強すぎたね。ハハッ、これでも死なないなんて、あんたはどんだけ魔力あるんだよ。庶民のくせに、庶民のくせして、な」


やれ、と合図で私の目の前に火の玉が現れた。思わず水魔法で防ぐ。


バチン。


全身にしびれを伴う痛みが走る。思わずあげた悲鳴にグリスティン少年はいびつな笑顔を浮かべた。


「早く、吐けよ? 死ぬよ? 」

「わ、私はッ、知らないッ 」

「知らない? そんなこと通じないな」


知らぬ、と言葉を重ねれば電撃を喰らう。拘束のせいで逃れられない。さらに子分へ棍棒で殴る指示を出した。


通じない、か。


ならば。


私は決意した。

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