第10話・俺の唯一の願い。


歩輝side。



「たくっ」



なんだあいつ。すげーキレてたな。



「生理か?」



リビングを見渡し、近くにあったソファーに腰を下ろした。


それにしても広い家だな。6人で住むんだし普通か。


白い家具に白い壁。



「…病院かよ」



シェアハウスは俺の親父が勧めてくれた。


華恋も一緒にと言われ華恋を、誘えば"歩輝が行くなら行く"と不機嫌な顔で言われた。


俺にキレても仕方ねーだろ。


俺と華恋は同じ病院で生まれて同じ日に生まれた。


家も隣同士で幼稚園、小学校、中学校、高校ずっと一緒。


だから華恋の事は自然と何でも知ってる。


例えば華恋は人間が嫌い。


人と関わるのが苦手の方が正しいかもな。


だから華恋は壁を作る。


周りもその壁のせいで、話しかけたくても話しかけられない状態。


華恋は顔が良いから自然と人が集まってくる。


幼馴染みの俺から見ても華恋の顔立ちは綺麗だと思う。


華恋以上に整った顔立ちは見たことがない。


華恋はフランスのクォーターで、母親の方の血を濃ゆく受け継いだため、日本人離れした容姿を持っている。


あいつは魔女と呼ばれてるが、他に2つの呼び名がある。


一つ目はフランス人形。


二つ目は歩く国宝。


どっちも華恋にピッタリだと思う。


まぁ。見た目だけな。


中身まではフランス人形でも歩く国宝でもない。


まさに魔女だ。


別に華恋は性格悪い訳ではない。


ただ、ハッキリ自分の意見を他人にぶつける。


良く言えばサバサバ系女子。悪く言えば口が超悪い。


そんな華恋だから皆仲良くしたいと思っている。


だけど華恋は絶対にそれを許さない。


華恋の前ではわざとコソコソ話をして、気を引こうとするが、華恋は全く見向きもしない。


本当は誰よりも一人になるのを嫌うのに。


本人は気付いてないけどアイツは昔から寂しがり屋なんだ。



「昔は良く笑う奴だったのに」



天井を眺めボソッと呟き目を閉じた。


昔の華恋は、今とはちがっていつも笑っていた。


性格も明るく人懐こくて、人を引き寄せる力があって、いつもみんなの中心で笑っていた。


俺はそんな華恋が好きだった。


幼いながらこの笑顔を守ろうと誓った。


けれど、その笑顔を奪ったのは結局俺だった。


あの日俺がワガママ言わなければきっと華恋は、今でも笑って居ただろう。


全ては俺が悪い。


幾ら償っても償えきれない。


だから華恋が俺を必要としなくなるまで俺は、華恋の傍に居続けてあげねーといけね。


護るためがいつの間にか俺の中で使命になっていたんだ。


だけど俺には気になる奴が居る。


B組の篁 凛。


韓国のハーフらしいそいつは、華恋程ではないけど綺麗な顔立ちをしている。


華恋は知らない。


けど、あいつは感が良いから気付いてるかも知れねー。

時々思う。


あの日が無ければ、お互い今とは違った人生を送って居たのかもしれない。


華恋は今頃沢山の友達に囲まれて、笑っていたのかもしれない。


今の華恋を思い出す度に心が苦しくなる。



「…アイツの笑顔10年近く見てねーな」



俺はこの10年間あいつの笑った顔を一度も見ていない。


見てきたのは、アイツの無表情な顔と悲しそうな横顔だけ。


氷の様に閉ざした心を誰かが溶かしてくれると、信じて俺はこのシェアハウスにかけた。


本当は俺が溶かしてやりたい。


昔の笑顔を取り戻したい。


だけど俺には無理だ。


俺には、氷の様に閉ざした心を溶かす事も、笑い方を忘れた人形の直し方も分からない。


俺が出来るのは願う事だけ。


アイツがもう一度笑えるように。


ただそれだけ。


アイツの唯一の家族として心から願うよ。


華恋がもう一度笑えますように。




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