第8話・"約束"それは呪いの言葉。



「はぁ。疲れた」



「終わったのか?」



前を見ると壁に寄りかかって立っている歩輝がいた。



「歩輝!どうして居るの?」



意外な人物の登場に驚き慌てて歩輝の方に駆け寄った。



「あ?お前待ってたに決まってんだろ。早く乗れ」



私にヘルメットを投げてぶっきらぼうに言う歩輝。


私は黙ってバイクの後に跨った。



「スピードあまり出さないでよ」



歩輝のお腹に腕を回し背中に頬をくっ付けて言った。



「うっせーな。もうあっちに直行でいいよな」



私の返事を聞きもせずにバイクを進めた。


あっちとはシェアハウスの事だ。



「…ねぇ。歩輝」



「あ?」



前を向いたまま返事を返す。


何だかんだ言ってバイクのスピードはちゃんと落としてくれる。


昔から歩輝は優しい。


私のワガママにも笑顔で付き合ってくれる。


だから私は歩輝に甘えてしまう。



「…好きよ」



「…俺もだよ」



切ない声で呟く貴方の顔を見る勇気は、今の私には無い。


だって本当の事を知りたくないもの。


私は偽りの世界に自分を閉じ込める。


偽りだって事を気づかないフリをして。


だから私は歩輝を縛る。



「……"約束"守ってね」



「…嗚呼。守るよ」



"約束"こんな便利な言葉で私は歩輝を縛り続ける。


私から離れないように。


私が一人にならないように。


歩輝に呪いをかける。


…これは私の全てを奪った歩輝に対しての罰よ。



ギュッ。



歩輝のシャツを強く掴む。


私から誰も歩輝を奪わないで。


私の世界に歩輝が居ればいい。歩輝だけでいい。


この時の私はそう思っいた。


歩輝さえ居れば私は生きて行けると思った。


だけどこの時既に運命の歯車は回っていた。






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