第7話・懐かしい人。




「はぁ。今日はどうしてこんなに人と関わるのかしら」



図書室に行くだけなのに異常に疲れた。


こんなに人と関わったのは何年ぶりだろう。


少なくても高校に入ってからは無かった気がする。


…ん?いや…1人いた。


高校に入ったばかりの時に図書室で出会った。


私の初めてを全部奪った人。


歩輝と同じくらい大切だと思えた人。


初めて他人で心を許せた人。


これかもずっと一緒に居たいと想えた人。


だけど私はそんな彼を裏切った。


付き合ったのはたったの二ヶ月だったけれど凄く幸せだった。


誰も知らない秘密の恋人。


歩輝も知らない。


私と彼だけの秘密。


別れてから彼とは学校では会わない。


お互い会わない様にしていたのかもしれない。


会うとしても始業式や何かの行事で、台に立って挨拶する彼くらいしかない。


今日もそうだった。


だけど私は彼の声を姿を聞かないように、見ないように

、して眠った。


未練なんてない。


残っているのは気まずさと罪悪感だけ。





ガチャ



「やっぱり此処が一番落ち着くわ」



図書室に入り空気を思い切り吸い込んだ。


本当に久しぶり。


此処は彼と始めた出会った場所だったから、会ったらどうしようと何度も思った。


けれど、彼が来ることはなかった。


だから私は図書室に来れる。


彼が居たら、きっと来なかっただろうな。


そう。これから先彼は此処に来ないと思っていた。


だけど私の予想は外れていた。



「……貴女も此処に来るんですね」



壁際に腰を掛けて氷に似た瞳を私に向ける彼。


キレ長い緑の瞳、筋の通った鼻、薄い唇そして金の糸の様な綺麗な金の髪。


彼の名は、ルキ・ウィリアム。


彼をこんなに間近で見るのは久しぶりだ。


彼と別れてからだから2年くらいだろうか。


彼は相変わらず無表情で冷たい瞳で、私を観察する様に見つめた。


前より冷たい目だな。それも全部私のせいか。



「……先程の挨拶とても素敵でしたよ」



作り笑顔を作り彼に笑いかけた。



「ありがとうございます。ゆっくり眠れましたか?」



笑顔でそう言い返された。


もちろん作り笑顔だけど。


バレてたのか。



「あら。バレてました?」



戯ける様に言うと冷たい瞳を向けられた。



「丸見えでしたよ」



「寝不足だったもので。…読書ですか?」



目を合わせない様に本を探す振りをして背中を向けた。



「貴女には関係ないでしょ」



冷たく言われ確かになって納得してしまう自分がいる。


なんか…



「…それもそうですね」



この場に居たくない。



「…用事思い出したので私はこれで」



この場に居るのがいたたまれなくなり、逃げる様にドアまで早歩きで行きドアノブに手を当てた。



「本読まないんですか?」



「…今日は貴方が居るので辞めときます」



そう言って図書室を後にした。



「…可愛くありませんね」



私が後にした図書室で一冊の本を手にして、切ない声で彼がそう呟いていた事に、私は気づかなかった。



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