Prologue End

 ~白夜side~

 

 彼女を連れて――お姫様抱っこのまま――エレベーターに乗って一階へと向かう。

 時間は23時を過ぎたころ。病院は消灯していたが不思議と怖さを感じない。腕の中のぬくもりが安心感を与えてくれているから。

 そのまま目的地へと向かう。自然と足早になりそうなところを必死に止めて、ゆっくりゆっくりと進んでいく。

 

 目的地に着いた。腕の中の眠り姫は、歩みが止まったことを察して

「白夜くん?」

 優しくて、儚い声で問うてくる。短い一言の中にいろいろなものが、あふれんばかりに詰まっていた。その中に恐れという感情はない。願わくは、いや確信を持って言える。俺の腕の中だからという安心感。これは俺個人に向けられた絶対の信頼。これは、これも彼女からもらった宝物の一つで。


 今からすることが彼女に対する俺ができた最大の恩返しだ。

 今の俺にできて、昔の俺にはできなかったこと。

 

 それは東雲白雪という――俺が愛した人――がいるかどうかという差だ。

 いや彼女だけじゃない。宇佐美先輩、クラスメートの祐樹と山中さんを含め学園の全員が力を貸してくれた。

 でもやはり彼女の存在が大きいことはここ3日で痛感した。

 みんなから愛された東雲白雪。

 俺が愛した東雲白雪。

 みんなが、学校のみんながなにかを渡したいと思ったから。

 だから俺は、俺たちはここにいる。


「白雪。愛してるよ」

 優しく、最後の確認をする。

「ぇっと。私も愛してるよ」

 少し照れつつも答えてくれた。

 お互いにお互いを『愛してる』。


 だから少し歩んで立ち止まる。寒いはずの12月24日の空の下。


 ぎしっと音がなり、扉が開いた。


 そこは教会。ステンドグラスが美しい。

 彼女にも見て欲しかった。

 

 一歩踏み出すと両脇から

「お幸せに~」

「おめでと~」

「一色~。幸せにしないと家に殴り込むからなー」

「東雲さんじゃかなわないよー。すごいきれいだもん」

 みんなが口々に祝福の言葉と花びらをかけてくれる。

 

「ど、どういうこと?えぇ??夢見てるのかな?」

 彼女は呆気にとられて確認するように俺の言葉を待っている。

「夢じゃないよ。現実だよ。

 みんなが祝福しに来てくれたんだよ」

「ぇえ……」

 言葉もない彼女。

 そのまま止めていた歩みを再開する。

 みんなが口々に祝福してくれる。

 

 そして終着点。

 そこには神父さんがひとりで待っていてくれた。

 そして体の自由がきかない人のための椅子がひとつ。

 そこに彼女を座らせる。そっと後ろから宇佐美先輩がベールをかけた。


 俺は彼女の横に並んで立ち、お互いに手をとる。


 そして始まった。


「新郎 一色白夜、あなたは

 ここに居る東雲白雪を

 病めるときも、健やかなる時も

 富めるときも、貧しき時も

 妻として愛し、敬い、慈しむ事を

 誓いますか?」


「はい。誓います」

 力と優しさと愛情をこめて答えた。


「新婦 東雲白雪、あなたは

 ここに居る一色白夜を

 病めるときも、健やかなる時も

 富めるときも、貧しき時も

 夫として愛し、敬い、慈しむ事を

 誓いますか?」


「はっ……はい。……ちか……誓います……」

 もう涙でぼろぼろで。それでも幸せそうに微笑んでいる。

 イタズラなんてしたことなかったけど、これだけ驚いて、泣いて、喜んでくれるなら――これ以上は望まない。


 神父さんは満足そうにうなずいて

「では。誓いのキスを」

 また宇佐美先輩が来て、俺のほうを向くように椅子を動かしてくれた。


 顔を近づける。彼女の片方の手を軽く……軽く握り、空いている方の手でベールをとって、大歓声の中


 永遠のようなキスをした。

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