涙と言葉の重さ

 

 ここはイエス・マリア・キリスト病院。

 一般外来から入院までを診る病院である。そして最上階にはあまり例を見ない特別な入院棟だった。

 最上階はホスピス――終末医療――もう助かる見込みがほとんどない人を最後に受け入れる場所。

 多くの命がここで最期を迎える。そして一室空くとすぐに誰かが入る。

 そして先週、珍しく10代の女の子がそこにやって来た。


 ある夜。その部屋に少年と少女がいた。


 少年は泣いていた。声を出し嗚咽交じりに泣いていた。

 愛する人がもう助からないとわかったから。


 少女も泣いていた。声を出し嗚咽交じりに泣いていた。

 愛する人ともう一緒に居られないとわかったから。


 ひとしきり泣いた後、彼女の口から言葉が出てきた。

「もう何も聞こえないの」

 少年はうなずく。

「もう何も見えないの」

 少年はうなずく。

 そして……。

「いやだよ!ひとりぼっちはいやだよぉ……。」

 少女は大粒の涙を流して少年の手のひらを抱きしめる。

 少女は親にすら見せられなかった姿で少年の腕を抱きしめる。


「死にたくないよぉ……。怖いよぉ……。」

 少年も少女も避けていた「死」という言葉が出てきて、否が応でもそれは二人の現実を破壊した。


 

 

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