第3話ビター


 ~白夜side~

 この人は何を言ったのだろう。いやわかっている。俺が東雲先輩を好きだということを言ったのだ。

「いやぁわかるよ。一色くんの態度が全然違うし」

 ころころと笑いながら言っている。

「そういうのは余計なお世話じゃない?遠慮というか人間として問題があると思うけど」

 いつになく、というか本気で怒っている宇佐美先輩。

「もう行きましょ?」

 言葉にはかなりの棘がある。そして疑問形なのに東雲先輩の返事も聞かないで手を強引に引っ張って店を出ていく。


「で。どういうつもりですか?青山さん」

 少なからず俺も頭にきている。

「だって悔しいんだもん。正直ね、一目惚れだったの。なのにあの子が来たら一色君の態度がわかりやすいぐらい変わっちゃたんだもん。

 でも勝ち目ないな。あの子かわいいだけじゃない何かを持ってるもん」

「なんで初対面でそんなことわかるんですか?」

「芸術の世界で生きていこうとするとそういうのも大切だからね」

「そうですか。宇佐美先輩の言葉とおなじですが。

 本当に人間としておかしいと思いますよ」

 そのあとは返事も聞かずに、食べかけの昼食代の自分の分の金を置いて先に店を出た。

 

 ~白雪side~

「ちょ、ちょっと待ってよ~」

 緑ちゃんは本当に怒っているらしく、いつもは私の歩くスピードに合わせてくれるのに今はずんずん先に行ってしまう。

 しばらくそのまま緑ちゃんを追いかけて歩いていると、不意に緑ちゃんが立ち止まった。くるりと振り返ると

「なんなの!?あの女!!」

 美人な緑ちゃんは起こるとかなり怖い。目がきつくなって、言葉もきつくなる。

「いや。あの女の人の勘違いかもしれないし……」

 緑ちゃんは「ふぅ」と一息。

「余計なお世話なんて言ったけど……

 白夜君が白雪のことを好きっていうのは本当だと私も思うわよ」

 それが本当だったらどんなにうれしいだろう。

「ねえ。緑ちゃん。一色君の笑顔が偽物というか無理に作ってるのわかる?」

「わかってるわよ。あれだけの経験をして心からの笑顔なんて出せるわけないじゃない」

 やっぱり緑ちゃんも気が付いていた。だから私は告げる。

「わたしね。決めてるんだ。一色君が本物の笑顔を見せてくれたら告白しようと」

 緑ちゃんはあっけにとられている。しばしの沈黙の後

「白雪は変わったわね。昔の白雪は人の顔ばかり見てて、心の大事なところには踏み込まなくて。

 なのに今は……」


 二人で笑顔になる。言葉にしなくてもその先はわかるから。


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