第8話私の初恋
~白雪side~
私の初恋。それは高校2年生にして唐突に訪れた。
最初は気になる男の子。
そして目の離せない男の子。
そして好きな男の子。
長いようで1ヶ月しか経っていない一色くんとの出会い。
一色くんは変わった。それをきっと一色くんは私たちのおかげと言ってくれるのだろう。しかしちがう。元々一色くんが持っていた魅力が前に出てきただけなのだ。
前の一色くん。声も瞳も冷たくて、人を遠ざけようとしていた。
今の一色くん。冷たい瞳は人を映すようになった。
冷たい声は、ときおり暖かく優しい言葉をかけるようになった。
そんな一色くんの周りには人が集まるようになった。
お母さんにはバッチリ気づかれている。毎日手作りのお弁当を作っていたのだ。理由を聞かれごまかすよりは正直に言った方が良いと思った。
「まぁそうなるとは思ってたわ」
とはお母さんのセリフ。
一言だけで黙って私がお弁当を作るのを許してくれた。
一色くんの過去を聞いたとき。帰った私の瞳を見て満足そうに頷いていたお母さん。
私はあの時、感情のままに言葉をぶつけた。それが正解なのかは分からない。でもそれをきっかけに一色くんとより親しくなれた。
そんな私の悩み……。
「一色白夜と東雲白雪は付き合っている」
学園中に流れている噂だ。
学園祭をずっと一緒にまわっていたことは周りの誰もが見ていたのでまあ仕方ない。
確かに私は一色くんが好きだ。
気のせいではなければ一色くんも私のことを心の片隅ぐらいでは想ってくれていると思う。
でもここから先が進展しないのだ。
恋愛経験のない私。
作り物じゃない、本物の笑顔をくれたその日。私は告白しよう。
きっとその日はそう遠くないだろう。
学園祭も終わり今日はお片付けのためには学園へと来ていた。
私は心ここにあらずな状況で、お片付けをしていた。そんな私を気づかって、緑ちゃんは片付け班から外してくた。
クラスの半数は真面目にお片付け。
もう半分はおしゃべりといった様子だ。
「心ここにあらず」な理由。
今朝、一色くんが女の子とふたりで登校してくるのを見てしまった。
前のように本を片手に、とかではなくきちんと会話しながら歩いていた。
女の子の方はこれはもうすごく楽しそうに一色くんの横を歩いていた。
それを見て胸が痛んだ。本当なら喜ぶことのはずだ。一色くんに友達ができたのだから。目標を達成したのだ。
じゃあ私と一色くんの関係はどうなるのだろう。
私が教室まで行かなかったら一色くんは私の教室まで来てくれるだろうか?
ぐるぐると嫌なことばかりが頭を駆け巡る。
気持ちを切り替えなければいけない。
そう思いみんながお片付けをしている教室からそっと出る。
向かうのは校舎裏。
初めて一色くんの声を聞いた場所。
一色くんを知ることになった思い出の場所。
先客がいた。一色くんの声だ。
「東雲さんとお付き合いしているというのは本当ですか?」
こっちは女の子の声。
「いえ。付き合っていません」
盗み聞きは良くないと思いながらも動くことができない。
「なら、好きな人っているんですか?
東雲さんのことが好きって噂になってますけど」
「そうですね。そんな嘘もつきました」
嘘と言った。ということは私のことは好きって訳ではないということだ。
ふらふらとその場をあとにしようとする。
「でも今なら嘘じゃなく言えます。俺には好きな人がいます」
ピタッと足が止まる。好きな人がいると言った。
でもこれは私が盗み聞きしてはいけないことだ。
小走りで校舎裏から飛び出した。
結局、頭を切り替えるどころか余計に一色くんのことを考えてしまうようになってしまった。
そんな状態で帰路に立つ。お片付けなんて全然手伝えなかった。緑ちゃんも今日は先に帰っているのでひとりでとぼとぼ歩いている。
「あーぁ。一色くん、私の気持ちなんてこれっぽっちも気づいてないんだろうなぁ」
思わず声に出してしまう。
「なにに気づいてないんですか?」
すごい勢いで振り返る。そこには一色くんがいた。
「えっと……。いや。なんでもないの……。気にしないで……。」
よく分からないといった顔をしている一色くん。
「どっどうしてこっちまで?お家なら反対じゃない?」
「本屋で買い物しようと思いまして。品揃えならこっちの本屋の方が良いので」
そんな理由で危うく私の恋心がばれるところだったのか……。
「一色くん今日も告白されたでしょー」
なんとか平静を保つ。
「なんで知ってるんですか……。
告白というか確認って感じでしたけどね。俺と東雲先輩が本当に付き合ってるのかの」
「私もクラスの女の子からよくそれ聞かれるなぁ。一応ちゃんと否定してるんだけどね。前みたいになったら嫌だから」
傷つけられる一色くんはもう見たくない。
今までこれ以上ないってぐらい傷つけられてきたのだから。
幸せになってほしい。
願わくは私が幸せにしてあげたい。
「一色くんは今朝も女の子と一緒だったよね。モテるんだね」
私は今どんな顔をしているだろう。
「今朝のはクラスメートですよ。たまたま道の途中で会って一緒に登校しただけですよ」
そっか。クラスメートか。たまたまか。ホッとする自分がいる。
「じゃあ私はここで。バイバイ一色くん♪」
「はい。失礼します」
私はそのまま家の門をくぐった。
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