第6話学園祭饗宴劇 白雪編

 ~白雪side~


 今日も私は目覚まし通りに6時に起きる。目覚めはすっきり快調だ。

 なんといっても今日は学園祭。しかも一色くんと一緒にまわる約束をしているのだ。

 まだ細かい話はしていないけど、一色くんは執事喫茶をやると言っていた。

 なら一色くんの燕尾服姿も見たいし、お店まで行ってから話をすればいいだろう。

 そんなことを思いながら顔を洗ってプラムとリンゴにご飯をあげる。


 今朝の占い。「思わぬハプニングに注意!」で6位だった。なんともビミョーな内容。ハプニングってなんだろと思っているとお母さんが起きてきた。

「おはよう!お母さん♪」

「おはよう。白雪」

 朝の挨拶をするとお母さんも顔を洗いに洗面台へと向かう。今日もお父さんは起きられないみたいだ。


 お母さんと話ながら朝ごはんを食べる。

 実は学園に入学するとき、私が朝ごはんとお弁当を作ると提案したことがある。しかし学生うちは学生らしく友達と遊んで勉強しなさいとやんわり断られた。それからほぼずっとお母さんが朝ごはんとお弁当を作ってくれる。たまに私が「今日はお弁当いらないよ。学食で緑ちゃんと食べるから」と言って作らない日を作っている。

 しかしちょっと前の1週間は違った。私は一色くんにお弁当を作って持っていくため、自分でお弁当をふたりぶん作っていた。

 お母さんに理由を話さない訳にはいかず、一色くんの名前を出したらすごく嬉しそうに笑ってくれた。

 なんやかんやお母さんも一色くんのことを気に入っているのだろう。もしくは気になっているのか。


 だけど今日は学園祭。お弁当を作る必要もなくお母さんとの話題も学園祭のお話がメインだった。一色くんが燕尾服を着る話をするとはしゃいでいた。年甲斐もなく……。

 それを言ったら睨まれた。そんな朝の風景。


 今日は制服ではなく私服での登校が許可されている。女の子的には可愛い制服も捨てがたいが、いつもとは違う私服を見せ合うのが通例らしい。緑ちゃんいわく。だから去年も私は私服で行ったし今年も私服で登校する。

 お洋服は昨日のうちに決めてある。

 コスプレ喫茶でロリータ系のお洋服を着るのだから、私服は違う感じにしようと思い、紺色の細身のロングワンピースにショートブーツ、チェスターコートという装いだ。ちょっと背が足りなくて格好良いとは違うけど、緑ちゃんが前に可愛いって言ってくれたので、これにした。


「いってきまーす」

「はい。いってらっしゃい。後で見に行くからね」

 お母さんと言葉を交わして家を出る。


 まずは緑ちゃんのお家。インターフォンを押す。珍しく

「ごめん。ちょっと家の中で待ってて」

 と言われてお家にお邪魔する。

「あら。白雪ちゃん。お久しぶりね」

 緑ちゃんのお母さん、美樹さんに声をかけられた。

「お久しぶりです。たぶん緑ちゃんのお誕生日以来ですよね」

「そうね。もっと私たちのお家に来てくれてもいいのよ?

 緑ったらいつも白雪ちゃんのお家にお邪魔してるみたいだし」

 そんな感じで世間話。

 緑ちゃん遅いなぁ。と思っているとバタバタっと階段を降りる音。

「ごめんなさい、白雪。待たせちゃったわね」

 そこには細身のスーツを着た緑ちゃんがいた。

「みっ……緑ちゃん。そのお洋服は……?」

「いつもの服で行こうと思ったらコーヒーこぼしちゃってね。

 格好良い服で行きたかったからこれにしてみたんだけど……。変かしら?」

 黒の細身のスーツでスカートもタイトなもの。これぞビジネスウーマンっていう感じですごく格好良い。

 背も高いし顔も目鼻立ちのしっかりした美人さんだからすごくスーツが似合っている。

「……。やっぱり変かしら……。」

 緑ちゃんが元気無さそうにこぼす。

「ううん。そんなことないよ!すっごく美人さん!キレイ!」

 うまい言葉が見つからない。それぐらい緑ちゃんはキレイだった。


 美樹さんに挨拶をして緑ちゃんの家を出る。

 いつも早めに登校しているから、少しぐらい遅れても遅刻にはならない。


「おはよー」

 みんなに挨拶しながら教室に入っていく。

 緑ちゃんは1枚の紙をクラスメートから受けとると私にも見せてくれた。

「シフト表」と書いてある。

 私は最初3時間働いて3時間休憩。そのあとも同じような感じだった。

 緑ちゃんはバスケ部の方にも顔を出さないといけないので休憩時間は多目に設定されている。


 開店準備。女子たちは更衣室でそれぞれのコスプレに着替える。ロリータからメイドさん、セーラー服などなど。レンタル代だけでもけっこうかかってると教えてくれたのは緑ちゃんだった。


 去年の感じから考えて、開店から混むだろうと予想しているのは緑ちゃん。

 確かに去年も開店からすごく混んで行列ができていた。


 そんな予想はピタリと命中。開店から男の子のお客さんがひっきりなしにやってくる。

 飲み物はドリンクサーバーを借りて甘いものからお茶まで一通り出せるからだろうか。注文が止まる気配がない。


 そのまま忙しいじゃ済まないぐらいの修羅場に目がまわりそうになりながらもなんとか3時間、働ききった。


「お店の宣伝になるから!」とクラスメートの池内さんに強く着替えを引き留められ、諦めてロリータ系の服のまま校内を歩くことになった。

 道行く人の視線が痛い気がする。恥ずかしい……。

 緑ちゃんはどこから出したのか普通に制服姿で、文句を言ったら「予想通りよ。だから私は制服持ってきたの」としれっと裏切られた。

 緑ちゃん、恨む。


 ふたりとも目的地は決まっていた。一色くんのクラスの出し物だ。1日目が執事喫茶だと言っていたから、今日しかチャンスはない。

 ふたりでパンフレットを片手に一色くんのクラスの出し物をやっている1階まで歩いていく。

 そこには大行列ができていた。学園の女の子から他校の制服を着た女の子、女の子だらけの大行列。ちょっとむっとしてしまう。


 一色くん。いるかな?と思い入り口から覗いてみると笑顔で接客している姿が目に入った。

「なるほどね~。白夜くんが笑顔で接客してるからこの行列なのか……」

 緑ちゃんは疲れたようにため息混じりにそうこぼす。

 私は笑顔を振り撒いている一色くんの姿は嬉しい反面、きっと無理しているんだろうなと心が痛んだ。

 いくら一色くんが良い方向に変わったとはいえ、きっとまだ見知らぬ相手に笑顔で接するほどじゃないと思う……。もしかしたらそこまで変わったのかな……。

 なんで心が痛むのだろう?

「とりあえず並びましょ?」

 緑ちゃんに言われて黙ってついていく。


 途中から急に回転率が上がったのかみるみる行列の人がお店に入っていく。


 一色くんが目の前まで来た。


「一色くん。その姿すっごく似合ってるね♪」


 いつもの切れ長な目はメガネでより理知的に。背も高く細身の一色くんに燕尾服はよく似合っていた。


 席に通してもらい少し話をする。

 一色くんは今日1日働きづめだった。これが今日のハプニングかと納得。

 それを聞いた緑ちゃんは一色くんに聞こえないように私の耳に顔を近づけて

「白雪。ここ終わったらすぐにお店に戻りなさい。

 それで今日は1日働いて明日は1日お休みをもらいなさい。

 そうすれば明日は白夜くんとずっと一緒よ」

 とささやいた。一色くんと1日一緒に……。


 出してくれたレモンティーを飲んで一色くんとバイバイする。そのまま私はお店に戻りクラス委員さんにお願いして、今日1日働く代わりに明日1日お休みをもらうことに成功した。

 相変わらずお店はすごい混んでいて目がまわるほど忙しかったが明日のことを思うと不思議と頑張れた。


 みんなで片付けをしてお家に帰った。

 あまりの忙しさにお母さんがなにを言っていたのかよく分からないまま夜ご飯を食べてお風呂に入った。


 ベッドに横になる。

 あっ!と思い出す。一色くんと約束しないと。疲れた頭は躊躇なく一色くんに電話をかけていた。


 私の方が先輩なんだもん。明日は私がリードしないと!

 なんて思いながら深い眠りに落ちていった。

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