第4話意外な約束

 ~白夜side~


 学園祭前日の放課後。


 喫茶店らしくなった教室。内装は全て女子が手掛けただけあってファンシーなものに仕上がっている。


 そんな教室の隅で俺は燕尾服に袖を通していた。

 慣れない服に戸惑いながらもなんとか着てみせる。


 クラスの女子のほとんど全員に「一色くん!お願いだから執事やってください!」と頭を下げられ、山中さんに肩を叩かれ諦めた。


 正直自分には似合わないと思う。無愛想だし……。


 男子が着替え終わり佑樹が教室の扉を開ける。廊下にはクラスの女子たちが待ち構えていた。

 扉が開いた瞬間に女子がなだれ込んでくる。

 口々に「キャー。格好良いー」とか「これ見れただけで幸せ」なんて言いながら男子の燕尾服姿を見ている。

 他の男子に睨まれている気がするが気のせいだろう。

「一色くん。これかけて!」

 手渡されたのはメガネ。度は入っていない細身のフレームのメガネだった。

 言われた通りにメガネをかけてみる。

 女子の歓声が一際大きくなった。

 佑樹は

「お前ばっかりなんでだ~」

 と言いながら涙を流している。


 燕尾服はレンタルしているので汚す訳にはいかない。

 女子たちが教室から出ていくのを確認すると全員元の制服に着替える。


 今日はそのままお開きになった。

「男子!明日は絶対に遅刻するんじゃないわよ!」

 という言葉に背を押され教室を出る。


 昇降口で見知った顔を目にした。

「お疲れ様です。東雲先輩も今帰りですか?」

「あっ。一色くん!うん。今から帰るところだよ♪」

 ちょっと緊張しながらも声をかけた。

 東雲先輩は柔らかな微笑みで返してくれる。

「明日から学園祭だね♪」

「そうですね。学園祭にまともに参加するの初めてなんで緊張しちゃいますね」

 今までは学園祭なんて休みの日にしていたぐらいだ。

 でも今回は違う。積極的ではないかもしれない。それでも自分のクラスの出し物に参加しようという気持ちなら芽生えていた。

「俺、変わりましたかね?」

 きっと俺の変化に1番敏感であろう人に尋ねてみる。

「すっごく良い方向に変わったよ♪

 今の一色くんたのしそうだもん」

 心の底から嬉しそうに語ってくれる。

 そうか。俺は変われたのか。それはこの人の、この先輩のおかげなのだ。

 だから

「東雲先輩。ありがとうございます。もし本当に俺が変われたのだとしたら、それは先輩のおかげです」

 感謝の言葉を口にする。それは紛れもない俺の本心だった。

「そんなことないよ♪自分を変えられるのは自分だけなんだから。

 一色くんが変わったのは一色くんが変わろうとしたからだよ」

 東雲先輩は柔らかな微笑みを崩さず優しく諭すように言葉を紡ぐ。


 この人と一緒に学園祭をまわりたい。

 そんな気持ちが自然と湧いてきた。

「東雲先輩。時間がもし余ってたら一緒に学園祭まわってもらえませんか?」

 どうやら本当に俺は変わってしまったようだ。こんな恥ずかしい言葉がすんなりと出てくるなんて。

「えっ?私でいいの?」

 大きな瞳をぱちくりさせている。

 そんな姿は本当に可愛らしい。

 あぁ。俺はこの人のことが好きなんだと改めて思ってしまう。

「もしかして宇佐美先輩とまわる予定でしたか?それならそちらを優先してもらっても……」

「ううん。緑ちゃんはバスケ部の方にも顔出さないといけないから忙しいって。

 だから一色くんと学園祭まわりなさいって言ってた」

 宇佐美先輩は俺の気持ちを先読みしてるのだろうか。

 あの先輩には敵わないと思った。

「それなら一緒にまわってもらえますか?」

 改めて聞いてみる。

「うん!もちろん!私の方が先輩だし案内しちゃうよ♪」

 とびっきりの笑顔で快諾してくれる。

「あー。でも一色くんの執事姿見せてね♪」

 そこで校門に着いた。

「じゃあね一色くん。また明日♪」

「はい。気をつけて帰ってくださいね」

 そこでお別れして帰路に着いた。


 どうやら俺の学園祭は好きな女の子とまわる青春真っ盛りなものになりそうだった。


 ~白雪side~


 一色くんと別れて帰路に着く私。


 時は少し遡り放課後のことを思い出していた。


 男子の強い結束力で決まったコスプレ喫茶。去年も同じ出し物で新鮮味に欠ける。

「白雪がいる限り永遠にコスプレ喫茶ね」

 とは緑ちゃんの言葉。

 私の格好はいわゆる甘ロリ。

 フリルのたくさん付いたふわふわのワンピースだった。

 緑ちゃんはスカート丈の短いメイド服。

 まぁ可愛いお洋服を着れるからと私は納得する。

 緑ちゃんは短いスカートが恥ずかしいのかずっと俯いていた。

「大丈夫!緑ちゃんすごい可愛いよ♪」

「そういう問題じゃないわ……」

 あくまでも恥ずかしいらしい。

 ここは話を変えよう。

「今年も緑ちゃんと学園祭まわれるんだよね?」

「あー。それがね、バスケ部の方でも出し物というかで親善試合することになっちゃってね。今年はちょっと時間とれないかな……。」

 ふむ。とすると学園祭はひとりか。などと考えていると

「だから白雪。白夜くんと学園祭まわりなさい」

 実は私も一色くんと学園祭まわりたいな、とは思っていた。

 たぶんそれを先読みしたのだろう。緑ちゃんは頭良いから。

「じっ自分から誘うなんて無理だよ~」

 思わず泣き言が出てしまう。最近の一色くんは前より人に囲まれている。きっともう一緒に学園祭をまわる女の子だって決まっているだろう。

 一色くんが女の子とふたりで学園祭を楽しそうにまわっている。その光景を思うと胸がきゅうっと苦しくなった。

「たぶん。大丈夫だから安心しなさい」


 そんなこんなで帰るのが遅くなってしまった。そのあと緑ちゃんはバスケ部の方にも顔を出してくるからと教室でバイバイした。


 昇降口で靴を履き替えている。

 頭では一色くんのことを考えていた。

 不意に声をかけられた。私が望んでいた声だ。

 学園祭のことを話ながら校門まで向かう。

「時間がもし余ってたら一緒に学園祭まわってもらえませんか?」

 一色くんから誘ってくれた。

 嬉しくて思わずとびっきりの笑顔になってしまう。

 もちろん快諾した。


 どうやら私の学園祭は好きな男の子とまわる青春真っ盛りなものになりそうだった。

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