第4話白夜の告白

 俺は愛人の子として産まれました。

 父が誰なのかは知りません。

 出生届すら出ていなかったので本当の誕生日すら不明です。

 実際の年齢すら不明です。


 母は俺を愛してはくれませんでした。

 俺は父親にあたる人からお金を引き出し続ける道具だと酔っ払った母は俺の首を閉めながら笑って言っていました。


 母は新しい男を捕まえては家に連れてきて遊んでいました。

 遊びは俺をいじめることでした。

 殴る蹴るは当たり前。

 タバコを吸えと言われて無理やり吸わされた。

 酒を飲めと無理やり口にビール瓶を突っ込まれ急性アルコール中毒になるまで飲まされた。

 湯を張った風呂に溺れ死ぬ寸前まで頭を突っ込んで押さえつけられたこともあります。


 とても楽しそうに遊んでいました。


 学校に通うことはありませんでした。出生届を出していなかったので当然です。そういうところばっかり頭がまわるようでした。


 新しい洋服なんてほとんど買ってもらえませんでした。


 家事は全て俺の仕事でした。


 飯が不味いと殴られました。


 掃除が行き届いていないと蹴られました。


 タバコを切らすと母の男に殴られました。壁まで吹き飛んで血が出ました。


 酒がなくなると母の男に瓶でお腹を殴られました。息ができなくて膝をついてお腹を抱えていると早く買いに行けとさらに蹴られました。


 端から見たら気がつかれないように服に隠れる場所ばかり攻撃されました。


 大切な金づるだから殺されることはなくても死ぬより辛い目にあいました。


 逃げ出したこともあります。

 だいたい10歳ぐらいの時です。買い物に行ったまま帰らないで公園で泣いていました。

 警察に保護され母が迎えに来ました。


 帰りたくないと泣いて叫びました。


 母は泣きながらごめんねと繰り返し俺を抱き締めました。


 地獄が終わったんだと思い母に連れられ家に帰りました。


 全部嘘でした。それまでよりひどい地獄にあわされました。


 監禁されました。学校に行くことも許されず食事することも許されず水さえ与えられませんでした。


 お腹が空いて爪を食べました。

 のどが乾いて涙を飲みました。


 飢餓感で頭がおかしくなりそうでした。


 母が男と外に遊びに行った隙にゴミをあさって食べられるものを探して食べて、水道水を飲んで命を繋ぎました。


 そんなことが何日か続きました。


 児童相談所の人が家に様子を見に来ました。そのときだけはまるで子供を愛する母親のように振る舞っていました。

 そして母親を愛する子供のように振る舞うことを強要されました。


 出生届を出してないはずなのにと殴られました。当時は意味が分からなかったです。


 うまくできないと殴られる。蹴られる。そんな思いで必死に演じていました。


 物心ついたときからそんな状況。

 心は次第に鈍くなっていきました。

 だいたい12歳ぐらいになったとき。


 笑えなくなりました。


 そんな俺を母は不気味に思ったのか、笑えと殴りました。


 だから鏡で笑顔の練習をしました。


 泣けなくなりました。


 そんな俺を母は不気味に思ったのか泣けと蹴りました。


 だからうそ泣きを覚えました。


 そんな地獄は唐突に終わりました。


 母が男と車で遊びに行きました。

 当然俺はなにもない状態で家にいました。

 帰ってくるまで飯を食べるな。水を飲むな、とだけ言って楽しそうに出掛けていきました。


 その日は帰ってきませんでした。


 次の日。警察が来ました。


 母とその男は事故で死んだと聞かされました。


 そのときにはもうなにも感じませんでした。


 大人たちが口々にいろいろ言っていましたがよく分かりませんでした。


 そのまま施設に預けられました。

 そのとき初めて自分が字を書けないことを知りました。

 名前がないことを知りました。


 そのとき初めて普通の子供は字が書けることを知りました。

 名前というものがあることを知りました。


 戸籍を新しく作るにあたり初めて母の姓が「一色」だと知りました。

「白夜」というのは施設の先生がつけてくれました。


 中学生1年生。13歳ということになりました。


 まず始めに読み書きを施設で教えてもらいました。

 平行してカウンセリングも受けました。


 母という悪魔はもういないんだと理解するまで1年かかりました。


 本が読めるようになるまで1年かかりました。


 そうして中学生2年生として中学校に転校という形で入学しました。


 初めて学校に通うということでたくさんの人たちが助けてくれました。


 だから「ありがとう」だけは言えるようになりました。


 失った感情を取り戻すため本を読み漁っています。


 まだ感情は取り戻せません。


 取り戻せるのかもわかりません。


 これが俺の全てです。


 つまらない話ですみません。

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