第2話女の子との買い物にはエネルギーが必要

 ~白夜side~


 日曜日。

 12時50分。駅前の噴水広場前。

 約束の10分前に俺は昨日電話で約束した場所へ来ていた。

 11月も半ばを過ぎめっきり寒くなってきていた。


 ここは施設の最寄りの駅から電車で15分のところにある有名なデートスポットで、待ち合わせに無難な場所だと思う。ショッピングモールも併設されているから買い物もできると紅葉園学園の生徒だけではなく、近くの学校の生徒にも人気のスポットだ。

 しかし、誤算があった。今日は日曜日。同じように待ち合わせをしている人がたくさんいるのだ。

 待ち合わせに使ったことなんてなかったから失敗してしまったと後悔する。

 おかげで東雲先輩が先に来て待っているのか、まだ来ていないのかも分からない。

 今日、俺は静かな決意をしていた。

 だからだろうか電話もメールも来ていないことを何度も携帯を開いて確認してしまっている。


「君、カッコいいね~。お姉さんと一緒に遊ばない?」

 不意に声をかけられた。

 見るからに軽そうで頭の悪そうな女だった。

 無視して携帯を確認する。

 そのとき、あの甘い声がした。

「ごめんね~。待たせちゃったかな?」

 息を切らせて走ってくる東雲先輩。

 そんな先輩を見たナンパ女はチッと舌打ちをしてそのまま別の男に声をかけに行った。

「あの女の人、一色くんの知り合い?だったらお邪魔だったかな……」

 上目遣いに聞いてくる。

 前から思っていたが東雲先輩は背が低い。俺は身長175cmと平均よりちょっと高いくらいだ。だから東雲先輩と会話をするとき必ず俺を見上げる形になってしまう。上目遣いでお願いをされると断れないし、「ちょっと可愛いな」なんて柄にもないことを思ってしまう。

「ただのナンパですよ。知り合いじゃありません」

 頭を切り替えて言葉を返す。

 東雲先輩はなぜかホッとしたような顔で頷いている。

「お昼は食べてきましたか?」

 確認する。食べてなかった場合はファストフードで軽く食べようと昨日から考えていたことだ。

「食べてきたよ♪一色くんは?」

 なにやらご機嫌な東雲先輩。

「俺も食べてきました」

 ならすぐに買い物だなと思い返事をする。

「なら早速お洋服見に行こ♪」

 東雲先輩も同じ事を考えていたようだ。

 ふたりで歩いてショッピングモールに入る。

 そのまままずはフロアマップのところまで歩いていく。

「今日ね、お洋服選びを私に任せて欲しいの♪」

 フロアマップを見ながら提案してくる。

「良いですよ。ただお金は自分で出しますからね」

 ここは譲れない一線だ。

「んー。分かった……。ちなみに予算とかってあるかな?」

 ちょっと不満そうだが納得してくれた。

 それとなく財布を確認する。一応最初からお金は全部出すつもりだったのでかなり多めに持ってきていた。

 その中から服にまわせる分を考えて伝える。

 東雲先輩はその金額に驚いていた。少なすぎたかと思って考え直していると

「それだけあればトータルコーディネートできるなぁ」

 なんて呟いていた。服なんて適当に目立たないものを買っているので、そこら辺の金銭感覚がよく分からない。

 ちなみに今日の俺の服装は黒のジーパンにVネックのニット、その上に細身の紺のコートを羽織っている。

 東雲先輩の横を歩く自分を想像して、恥ずかしくない格好をしたつもりだ。

 先輩はグレーのワンピースに黒のロングブーツ、白のふわっとしたコートを着ている。

 服の知識に欠けているので正確なことはよく分からないが可愛らしい服装だと思った。

 そんなことを思っている横で東雲先輩は考えがまとまったのかフロアマップの一点を指差して

「まずはここかな♪」

 と言って顔を見上げてきた。

 少し恥ずかしくて顔をちょっとそらして黙って頷く。


 着いた先はロック歌手が着てそうな服を売っている店だった。

 なんていうか全体的に攻めてる感じで気後れする。

「もしかして趣味じゃなかった?」

 そんな俺を不安そうに見つめてくる。

「趣味じゃないというか、俺に似合うのかな?って感じです」

 正直な感想を伝える。

「大丈夫だよ!一色くんなら似合うよ♪」

 そう言って店の中に入っていく。

 俺も覚悟を決めてついていく。


 そこからが長かった。

 あれやこれやと服を手渡してきては試着室で着替えて東雲先輩に見てもらう。納得がいかないのか何回も着替える。そのうちに店員が数人集まってきてちょっとしたファッションショーのようになってしまった。


 1時間ほどかけてようやく東雲先輩が納得するコーディネートになったらしく解放された。

 着替えたまま会計に向かう。

 思ったより安くて、女の人は買い物上手て言うけど本当なんだなっと思いつつ会計を済ませる。


 その次に待っていたのは店員によるへアセットだった。完全にノリノリのテンションで店員が強引に鏡の前に俺を座らせる。

 先輩と店員、ふたりでこっちが良いとかあっちの方が服に合っているとか言いながらワックスで髪の毛をセットしていく。

 俺はもう疲れてされるがままだった。


 全部が終わりスタンドミラーで全身を見た。そこにはなんか売れなさそうなロック歌手みたいな俺がいた。

 なのに、「お店のポスターにさせてください」と店員に頼まれ、写真1枚で服の代金を返してくれると言い出した。

「やっぱり一色くんに似合った!」

 と嬉しそうにしている先輩を見たら断りきれず、1枚だけ、という約束で写真を撮った。だけなら良かったのに

「もし良かったら彼女さんも一緒に写りませんか?焼き増ししますよ」

 なんて爆弾発言をする。

 ふたりして完全にフリーズしてしまった。

 そしてあれよあれよと勢いに流されツーショット写真を撮ってしまった。

 焼き増しで渡された写真。どうしていいか分からず立ち尽くしている横で先輩は鞄に入れていた。

 それを見て俺も来てきた服を入れていた袋に写真を入れる。


 とりあえず上の空のままお礼を言ってお店を出た。


「すみません。なんか変なのに巻き込んで」

 まずは謝る。

「ううん。いいの♪記念になったね♪」

 ますますご機嫌な東雲先輩。


 買い物は終わった。

 頭を切り替える。


 聞いてもらいたい話があるのだ。

 興味がなければそれでもいい。その時は話さなければいいだけの話だ。

 それでももし興味があるなら聞いてもらいたい。


「東雲先輩。お話があります」

 真剣な顔でそう告げる。


 さあ。これが……なのか確かめてみよう。

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