第3話急接近するふたり 中編
~白雪side~
初めて一緒に下校することになった私はさっきまでの嬉しさもどこへやら。とても緊張していた。
さっきハンカチで涙を拭ってもらった時に見てしまった一色くんの瞳。キレイに透き通っていて、なににも染められていない真っ白な印象を受けた。
それを思い出すと胸がドキドキする。
それが緊張に繋がっているのだ。
私が靴を履き替えるのを一色くんは黙って待っているのが背中越しでも分かる。
ふと「いつもみたいに笑ってください」って言った一色くんの言葉を思い出した。するとスーっと緊張がとれた。
きっと緊張したままだと今度は一色くんに心配をかけてしまう。そんな心配もあった。
靴を履き替えた私はもういつも通りだった。
「ごめんね。お待たせ♪」
一色くんの方へ振り返る。
「大丈夫です。待ってませんから」
一色くんはさっきの優しさそのまま。
声にはいつもあった冷たさがない。
それが本当に嬉しくてつい頬が緩んでしまう。
並んで校門まで歩く。
そこで気がついてしまった。
私の家と一色くんの帰る先がまったく逆方向であることに。
どうしようかと頭でぐるぐる考える。
普通に考えれば校門のところでバイバイするだろう。
でもせっかく一色くんと帰るチャンスが生まれたのだ。これは逃したくない。
……。
「そう言えば先輩の家はどちらの方なんですか?」
当然の疑問だ。
「えっと……。校門を出て左のバス通りを歩いて……」
軽く説明する。
「じゃあ帰る方向は本当に真逆ですね」
やっぱりそうだ……。きっと校門のところでお別れを告げられるだろう。と思っていると
「こんな時間まで待ってもらったので、先輩が嫌でなければお家まで送らせてもらっても良いですか?」
と一色くんが言ってくれた。
私の懸念を察したであろう一言。
ますます一色くんのことが分からなくなる。いつもはあんなに冷たく人を遠ざけて、ひとりでいようとするのに。
こうやってわざわざ遠回りしてまで私に気を使ってくれる。
少しは私は一色くんの「特別」になれたのだろうか……。
いやいや。勘違いは良くない……。
でも……。そんな気持ちの狭間に揺れている。
「あの……。やっぱり嫌でしたか?嫌なら嫌って言ってもらっても……」
「全然嫌じゃないよ!」
言葉を遮って答える。答えるのが少し遅れただけでそんな心配をするところに不器用さが隠れている気がする。
「じゃあお言葉に甘えて送ってもらっちゃおっかな♪」
きっと今の私はすごい笑顔だと思う。
「じゃあ行きましょうか」
そう言って私と一緒に歩き出す。
初めて男の子と下校している。
会話は私が質問したり話しかけたりして、一色くんが答えるというパターンだ。
質問と言っても他愛もない質問で、「いつもなんで日替わりランチなの?」とか「お弁当作ったりしないの?」などなかなか核心に迫れない質問ばかりだ。
そんなこんなで家に着いてしまった。いつもは15分かかる道。長くも短くも感じたことはないけれど、今日初めてその15分が短いと感じた。
もっとお話したい!なんて思っている。
「あらあら。白雪が男の子と歩いてるなんて初めて見たわ。格好良い子ねー。彼氏なのかしら?」
お母さんだった。しかもとんでもない発言だった。
「初めまして。一色白夜です。彼氏じゃなくて今日、先輩に助けてもらったのでそのお返しに、と思ってお家まで送らせてもらいました。あと彼氏じゃないので安心してください。」
それに一色くんは慌てることなく返答する。
「まあまあ。積もる話もあるでしょうしあがっていってください」
強引なお母さん。
ちらっと私を見てくる一色くん。
「えっと……。一色くんが嫌じゃなければ……」
そうして初めてお家に男の人を招き入れることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます