第2話白雪の答え

 ~白雪side~


 私は今日、少し遅めの学食に来ていた。

 目的は一色くん。いつも遅めの学食で1人で本を読みながら食べているところ狙って話しかけるのだ。


 私は昨日、答えを出した。

 それはきっと一色くんにとって迷惑になるだろう。余計なお節介なのも分かっている。

 それでも一色くんにもっと人と関わって欲しかった。

 もっと人に関わってその暖かさを感じて欲しかった。

 最初はやっかみになるだろう。それでもそれをはね除ける強さを一色くんは持っていると思うから。

 緑ちゃんは否定も肯定もしなかった。

 緑ちゃんは私を応援してくれる。だからこそあえてなにも言わないのだろう。

 もし間違えそうになったら助けてくれる。そんな信頼がある。

 だから私は周りを気にしないで話しかけて見ることにした。


 きょろきょろと周りを見渡す。緑ちゃんも一緒だ。

 そして見つけた。いつも通り1人で本を読みながらご飯を食べている。

 この学園の学食はかなり広くて探すのに苦労するかと思ったが一目で分かった。

「緑ちゃん。あそこ」

 と言って目線を一色くんの方に向ける。

 緑ちゃんと顔を見合わせる。

 お互いに頷いた。

 そして一色くんの背中に向けて歩き始めた。


「お隣、座ってもいいかな?一色くん」

 声をかけた。冷たく払いのけられたらどうしようとか考えてたけど言葉はすんなりと出た。

 学食がかなりトーンダウンした。

 なるほど。緑ちゃんが言っていたことはこういうことかと納得した。

「はい。空いているのでどうぞ」

 一色くんは相変わらず冷めた声で短く告げる。きっと私が話しかけに来たなんて思ってもないのだろう。

 カウンターの席に一色くん、私、緑ちゃんの順に座る。

 緑ちゃんが小さな声で

「白雪がんばれ」

 と言ってくれた。


 最初の話題は決まっていた。

「一色くん。この前は踏み込み過ぎた話を聞いちゃってごめんね」

 そう。謝りたかったのだ。きっと一色くんが隠していたことだから。

「別に構いませんよ。特別隠していた訳ではないので」

 白夜くんは本から目を離さずに答える。

「隠している訳じゃないんだ……。」

 ちょっと驚いた。だって一色くんが施設の子だって知っている生徒はいなかったから。

「話すような内容でもないと思いますし。聞かれたこともないので話さなかっただけです」

 変わらず本からは目を離さない。

「東雲先輩と宇佐美先輩は食べないんですか?」

 ちらっとこっちの手元を見てそう言った一色くん。

「私たちは教室でお弁当食べてきたから大丈夫だよ♪」

 緑ちゃんは沈黙を貫いている。

 きっと私に任せた、という感じだろう。

 学食中の人が私たちの会話に聞き耳をたてている。近寄ってくる子は緑ちゃんがキッと睨むとすごすごと退散していく。

「それならどうして学食に来たんですか?」

 当然の疑問だ。

 だから鈍い一色くんに分かりやすいようにストレートで伝える。

「一色くんに会いに来たんだよ!もっとお話したいなって思って♪」

 にわかに学食がざわついた。

 やっぱり東雲さんも一色白夜のことが……。とか。いや、最初に声をかけたのは一色白夜らしいぞ……。他にも一色白夜は東雲白雪が好きって噂は本当だったんだ……。など。

 みんな好き放題言っている。

 さすがの一色くんも気がついたのか

「あの先輩。悪目立ちするみたいなのでやめた方が良いですよ」

 なんて言ってくれる。あくまで私たちの心配をする辺りに一色くんの優しさが隠れている気がする。それとも自分に無頓着なのか……。


 でも止めない。私は決めたから。

 そしてもっと知りたいから。一色くんのことを。


 でもここまで騒ぎになるとは思わなかった……。予想以上だ。緑ちゃんが最初に、私から1年F組の生徒に声をかけようとして、それを止めた意味を今さら理解する。


 少しずつ話していこう。そう思っていると

「あの、食べ終わったのでお先に失礼します」

 と一色は告げてプレートを持って席を立ってしまった。

 私にはまだ一色くんに伝えなくてはいけないことがある。

 だから慌てて声をかけた。

「また来るからね!もっとお話しよ?楽しみにしてるからね♪」

 少し距離が空いてしまったので少し大きな声を出してしまった。

 一色くんは少し困ったような顔で、ペコリと頭を下げるとそのまま学食から出ていった。


「これで明日から白雪も白夜くんもさらに注目の的ね」

 ずっと黙っていた緑ちゃんがやっと喋った。

「そうだね。でも私はやめないよ。一色くんが直接やめてくれって言わない限り」

 固い決意で答える。

 きっと私は一色くんに直接やめてくれと言われてもやめることができないだろう。今のちょっとしたやり取りでも私は楽しかったし嬉しかった。

 一色くんの優しさに触れたことができた気がしたから。

 願わくは一色くんも迷惑だけではない、なにかを感じていてくれると嬉しいと思う。そのなにかは私にもまだ分からないけれども……。

「白雪。目標は?」

 緑ちゃんが問うてくる。

「一色くんに友達ができること。私たちが友達になれること」

 そして心の中で密かに思っていること。

 いつも本を読んでいる理由を知りたい。

 これは緑ちゃんにもまだ内緒だ……。

 いつかもっと仲良くなったら聞いてみたい。きっとそこに一色くんの秘密が詰まっている気がするから……。


 そんな遠い先を思って緑ちゃんと一緒に教室に戻った。

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