第9話白雪から見た白夜
~白雪side~
バザーで衝撃の事実を知ってからこの1週間、一色くんを影から見て回った。
好奇心なのか同情なのか分からない。
どちらにせよ悪いことをしてるな、とは思っていながらもこそこそとしていた。
あの悲しそうな瞳と声が気になったというが1番の理由だと思っている。
1年F組の生徒に声をかけようとしたら緑ちゃんに止められた。
「白雪が聞いたら学園中の噂になる」
とは緑ちゃんが言っていた。
よく言っている意味が分からなかったけど従って行動していた。緑ちゃんはスポーツ推薦で入学したけど頭もかなり良いので、そういうものなんだなぁと思って納得することにした。
同じ学園とは言え学年も違えば部活動が同じな訳でもない。だからたいした情報は手に入れられなかった。
でもいくつか分かったことがある。
まず彼には友達と呼べそうな人が周りにいない。むしろ私の目には人を遠ざけているように見える。お昼は必ずちょっと遅めに1人で学食で本を読みながら食べていた。当然声をかける人もいなかった。
テストの結果発表が1年生用の掲示板に貼ってあり学年主席だった。過去3回分貼ってあったが全て主席。
恐ろしく勉強ができるという噂は本当だった。
そして1番驚きの噂は緑ちゃんが持ってきた。
「一色白夜は東雲白雪が好きらしい」
というとんでもない噂だった。なんでも告白した女の子が告白を断った理由を聞いたら一色くんがそう答えたというのだ。
緑ちゃんは
「断るのがめんどくさくなって適当に嘘ついたんじゃない?」
と言っていた。
この噂はずっと前に学食で一色くんが私たちに相席をお願いしたことが下地になって、噂になっているとも教えてくれた。
そんな噂をまったく知らなかった私としては本当にびっくりだ。
「一色くんって本当に有名なんだね~」
と言うと緑ちゃんはため息混じりに
「白雪も有名なんだけどね」
と聞こえないぐらいの声でボソッとささやいた。
「え?なぁに?」
「大丈夫。たいしたことじゃないから」
聞き返しても教えてくれなかった。
そんなこんなで1週間が過ぎた土曜日。
部活が終わり、家でシャワーを浴びた緑ちゃんは私の家に来ていた。
話題はやっぱり一色くんのこと。
緑ちゃんは部活の後輩や友達にそれとなく一色くんのことを聞いてまわっていたらしい。
学園には一色くんが施設の子だと知っている子はいないみたいだ。1人だけ一色くんと中学校が同じ女の子がいたらしく、緑ちゃんはその子にお話を聞きに行ったそうだ。
その女の子は実は一色くんが好きで同じ紅葉園学園を受験したそうだ。まだ告白はできていないどころか、一色くんが私のことを好きだという噂でかなり落ち込んでいたという。
その女の子が言うには中学2年の時に転校したきたというのだ。たまたま同じクラスに転校してきてなにかとお世話を焼いていたところで急に
「なにからなにまで世話してくれてありがとう」
と言われて好きになってしまったと恥ずかしそうに語ってくれたと緑ちゃんは言っていた。
そこでいじめを受け始めたというのも聞いた。中学校で1番かわいいと評判の女の子の告白をばっさり切り捨てたところ男子の反感を買ったそうだ。
校舎裏に呼び出されて暴力を振るわれそうになったが、逆に殴ってしまい停学処分になったという噂らしい。
ここまでまとめてみてますます一色くんのことがよく分からなくなった。
人にありがとうって言える心の暖かさも持ってる反面、徹底的に人を遠ざけようとする行動。
「それで……。実際白雪は白夜くんのことどう思ってるの?」
と、突然緑ちゃんが尋ねてきた。
「えっ……。私は……」
言葉がうまく出てこない。
「私は?」
緑ちゃんがニヤニヤしてる。
「そっそういう緑ちゃんはどうなの?」
逆に質問する。
「私は……。そうだね。気になる人、かな」
さらっと返してくる。
「私も……気になる人、かな」
この答えは卑怯な気がする。
「ごめんなさい。本当はもっと知りたい人……かな」
だから自信を持てる答えを出した。
そう。もっと知りたい。彼のことを。
「覚悟はあるの?」
緑ちゃんは真面目な顔で尋ねる。
緑ちゃんも分かっているのだ。一色くんが言わないだけでもっと辛かったことや悲しかったことを抱えていることを。
そして、それを知る覚悟があるのかを聞いているのだ。
「まだ分からない。でも一色くんが教えてくれるなら一緒に抱えてあげたい」
緑ちゃんの瞳をまっすぐに見つめて自信を持って答える。
「そっか。なら手伝うわよ。白雪が白夜くんの最初の理解者になれるようにね」
「うん。ありがとう♪」
とびっきりの笑顔で緑ちゃんに抱きついた。
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