第8話白夜の秘密
緑と白雪が隣り合わせに座り、白雪の目の前に白夜が座るというフォーメーション。
白夜はなにも言わずにバターロールを食べ始めた。
白雪と緑は状況に頭がついてこないのかパンを食べる訳でもなくただお互いの顔を見合わせていた。
そのまま刻は過ぎて行くかと思われた。
以外にも1番最初に口を開いたのは緑だった。
「パンが冷めてもいけないし、白雪。食べましょ?」
そう言って白夜と同じバターロールに手を伸ばす。
おずおずといった感じで白雪もメロンパンに手を出した。
正直、白雪も緑も味なんて分からないぐらいの疑問に頭が混乱していた。
3人、無言でパンを食べる。
あらかた食べてから緑が口を開いた。
「このままお別れっていうのもあれだと思うし自己紹介でもしない?」
「そっそうだね……。自己紹介っ。一色くんもいいかな?」
白雪もその流れに乗ることにしつつ白夜に聞いてみる。
「分かりました」
白夜はどこか気まずげにも答える。
「じゃあ私から。私は宇佐美緑。紅葉園学園の2年E組。バスケ部よ」
凛とした声で自己紹介を終える緑。
「えっと……私は東雲白雪です。緑ちゃんと同じ紅葉園学園の2年E組です……。」
対称的に甘い声で少し戸惑いながら自己紹介する白雪。
「俺は紅葉園学園の1年F組。一色白夜です」
相変わらず冷めた声で告げる白夜。
「えっとじゃあなんて呼べばいいかしら?」
緑は会話を続ける。
「お好きなように呼んでください」
白夜は興味なさそうに返事をする。
「じゃあ私は白夜くんって呼ばせてもらうわ。白雪は?」
「えっと……。一色くん……かな。ダメ?」
「良いですよ」
白夜はことさら興味なさそうに答える。
「私たちのことはなんて呼んでくれるのかしら?」
凛とした顔で尋ねる緑。
「東雲先輩と宇佐美先輩ですね。良いですか?」
「私は構わないわよ。白雪は?」
白雪は戸惑いながらも
「私もそれで良いです……」
と答えた。
「ところで白夜くんは今日、バザーのお手伝いで来たのかしら?」
ずっとふたりが疑問に思っていたことを踏み込んで聞いてみる緑。
もしもお手伝いじゃないとしたら……と思い白雪には聞くことができなかった。
しかし疑問はふたりの予想通りだった。悲しい方向に……。
「いえ。俺はこの施設にお世話になってます。親が死んで身寄りがいなかったので」
淡々と語る白夜。
予想していたとはいえショックを受ける白雪と緑。
「そう……。大変なのね」
緑は言葉少なげに答える。
「別に大変じゃありませんよ。親が死んだ時の慰謝料とかで生活には苦労してませんから」
「慰謝料……?」
思わず口から出てしまい、「あっ!」と思った白雪。
「ええ。事故死だったので」
そんな白雪の思いにも気がつかないで聞かれたことにだけ答える白夜。
再び沈黙に包まれる3人。
おもむろに白夜は立ち上がり
「手伝い、戻らないといけないのでお先に失礼します」
と言って教会の中に入っていった。
~白雪side~
白夜がいなくなった後のふたり。
「一色くん……。やっぱり施設の子だったんだ……」
未だにショックから立ち直れない。
緑ちゃんはなにかを考え込んでいるようだ。
あの冷めた声と瞳。あれがどうしても悲しそうに感じてしまう。
きっと言わないだけで辛かったこと悲しかったこと、たくさんあったのだろう。
なにか自分にできることはないだろうか……。
緑ちゃんはおもむろに
「白雪。私は明日、白夜くんの教室に行ってみるわ。ちょっと様子が知りたいもの」
と、とんでもないことを言い出した。
「待って……緑ちゃんっ。そんなの迷惑になっちゃうよ……」
慌てて止めようとする。
「だって気にならないの?絶対教室で浮いてるわよ。別になにかするわけじゃないんだからいいじゃない」
なにかのスイッチが入っちゃってる緑ちゃん。こうなるともう止められない。良くも悪くも正義感が強いのだ。私は悪いとは思ったことはないし、尊敬できる部分だと思っている。
それに一色くんについてもっと知りたいという気持ちもあった。身勝手なのは分かってる。それでも……。
だからだろう
「じゃあこっそりだからね。あと私も一緒に行くからね」
と言ってしまったのは。
「なに言ってるの。白雪がいたらこっそりにならないじゃない」
さも当たり前のように緑ちゃんが言う。
「えっ。なんで……?」
その無自覚さはなんとかしないとな、とボソッと言ってから
「まあ白雪は言い出したら引かないし。いいわ。ふたりで行きましょ」
と、白夜の預かり知らぬところでそんなことになっていた。
~白夜side~
手伝いに戻ることなくそのまま部屋に戻った白夜。
東雲白雪。
不思議な感じだった。
柔らかい微笑みは見ることができなかったが心が不思議と落ち着いた。
だからだろうか。余計なことまで話してしまった。
安い同情なんていらないと思ってた。だから同年代の人に、自分の身の上話をしたことなど1度もなかった。
東雲先輩は少なくとも同情ではなく、きっとただ感じるままに感情を顔に出していただけだろうと感じた。
あるのは安心感。今までほとんど感じたことのない感情。実の母親でさえ感じなかったことのない感情。暖かいと感じた。
もう会うことはないのだろうか?
また会ってみたい。そんな初めてだらけの感情にコントロールが効かない。
そのままベッドでぐるぐると東雲白雪という女の子について考えていた。
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