第6話彼女の1日
土曜日のある日。
白雪の朝は早い。
2階建ての2階の1室。そこが白雪の部屋である。女の子らしいちょっとピンク色の多い部屋。そこで6時きっかりに目を覚ます。
そこから1階の洗面所に向かう。
白雪の家では2匹の猫を飼っている。プラムとリンゴという名前。
その2匹が白雪が起きてきたことを察して、するすると起きてきてにゃあにゃあと朝ごはんを要求する。
柔らかい微笑みで2匹にちょっと待っててねと言い顔を洗い、化粧水をつけてから
「はい。おまたせ♪ご飯だよー」
と言いながら朝ごはんをあげる。2匹は満足そうにご飯を食べ始めた。
そしてテレビを見始める。毎朝6時半の占いを見るのが白雪の習慣になっていた。
占いが終わる頃にお母さんが起きてくる。
「おはよう♪お母さん」
朝の挨拶は欠かさない。お母さんも
「おはよう。白雪」
と言って洗面台に向かっていく。
東雲家は朝は目玉焼きにベーコン、サラダとパンという朝ごはんである。お母さんは手際よく朝ごはんを準備しつつ白雪のお弁当も作る。
お父さんは有名なデザイナーで夜が遅い。だからなかなかこの時間に起きるのは難しいのでふたりで朝ごはんを食べる。
「お父さんは昨日もお仕事遅かったの?」
白雪が尋ねる。白雪は夜の10時~11時には寝てしまうため父がいつ帰ってきているか分からない。
「昨日も遅かったわよ~。なんでも最初の発注と違うデザインがいいってお客さんが言いだしたってぼやいてたわ」
と教えてくれた。
そのあとも学校のこと、そろそろ中間テストが近いことや、親友の緑のことなど話ながら朝ごはんを食べていく。
そして7時45分頃。
朝ごはんを食べ終え、部屋に戻った白雪。まずは制服に着替える。そして今日の授業で使うものなどは昨日の夜のうちに準備してあるのでもう一度忘れ物がないか確認だけする。
だいぶ寒くなってきたので、制服の上にお気に入りの白いふわっとしたコートを着て下に降りる。
「緑ちゃんと待ち合わせしてるからそろそろ行くね♪いってきます♪」
とお母さんに言う。
「はい。いってらっしゃい」
という言葉に背を押され家を出る。
白雪の家から学校までは歩いて15分ほど。緑の家が学園に向かう途中にあるので、いつも緑の家に寄ってから学園に向かう。
いつも通りインターフォンを押すと玄関がガチャりと開いて緑が出てくる。緑は制服の上に紺色の細いコートを着ている。
「おはよう。緑ちゃん♪」
「あぁ、おはよう白雪」
そしてふたりで話ながら登校する。
学園に着くといろんな人が挨拶をしてくれる。私はその全てに必ず挨拶を返すし、知っている人なら自分からでも挨拶をする。
そうして緑ちゃんとふたりで教室まで歩いていく。
緑ちゃんとは幼稚園からの幼なじみで、とあるきっかけで親友になった。
とあるきっかけというのは小学校6年生の時。緑ちゃんとは同じクラスだった。
よくあるいじめだった。と言っても最初に私がいじめられていた訳ではない。クラスのあまり話したことのない女の子が男の子たちにいじめられていたのだ。私はその現場を目撃して、すぐにやめるように男の子たちに言った。するといじめの対象は私になった。教科書がなくなり、筆箱を隠され、ノートに落書きされていたこともあった。上履きも隠されたりした。悲しかった。でも先生に言えばその男の子たちが怒られてしまう。だから私はなにもなかったかのように笑い続けた。それがいけなかったのだろう。
いよいよ直接的な暴力になりそうになった。
休み時間。男の子たちに囲まれ怖くてなにもできなかった私を助けてくれたのが緑ちゃんだった。
格好よかった。ばっと私を庇うように立ち、なにも言わずに男の子たちを睨み付けただけだった。それでも本当に格好よかった。男の子たちはそんな緑ちゃんになにか言いながらも立ち去って行った。
緑ちゃんはそのまま私にもなにも言わずに席に戻ろうとしたので、私は慌てて緑ちゃんの手をつかんだ。そして自分が震えていたことに気がついた。それでもなにか言わなくちゃと思い
「ごめんなさい。助けてくれてありがとう」
と言った。そうしたら
「いじめられてたのは知ってたけどなんで先生に言わないの?」
と聞かれた。
「だってそんなこと言ったらあの人たちが怒られちゃうから……」
と返すと、一言
「お人好し」
と言って席に戻ってしまった。
それからいじめはなくなり私はことあるごとに緑ちゃんに話しかけた。
そうして段々と仲良くなっていき、いつしか親友になっていた。
私が廊下を歩きながら「ふふっ♪」と笑うと緑ちゃんが
「どうした?」
と反応した。
「小学生の時に緑ちゃんにお人好しって言われたの思い出したらちょっと笑っちゃったの♪」
と言うと緑ちゃんは恥ずかしそうに
「それは忘れてちょうだい」
とぴっしゃっと言い切ったが頬が赤く染まっているのがばればれだった。それがおかしくニコニコしていると
「白雪には敵わないわね」
と言って、ささっと歩くスピードをあげた。そんな私の親友宇佐美緑ちゃん。
「あー。待ってよ緑ちゃん♪」
パタパタと追いかける。そうやって1日が始まるのだ。
授業中。緑ちゃんはちょっと離れた席でぴしっと背筋を伸ばして授業を聞いている。私はちょっとノートにお絵かきしながら、それでも一応ちゃんと授業は聞いている。そろそろ中間テストが近いため少しピリピリとした空気の中、授業が進んでいく。
そうして今日の授業が終わった。
緑ちゃんはこのあと部活があるためお昼ご飯を食べる必要がある。私は特に部活をしていないのでそのまま帰ればいいのだが、緑ちゃんがお昼ご飯を食べるなら一緒に食べようと土曜日でもお弁当を持ってきている。
そうしていつも通り緑ちゃんの席まで行き机を1つ借りて緑ちゃんの机にくっつけて一緒にお弁当を食べる。
食べてる最中は話しかければ答えてくれるがなかなか緑ちゃんからは話しかけてくれない。そんなお昼ご飯にも慣れている。
食べ終わったら緑ちゃんは部活へ。私は帰宅する。
「じゃあね♪緑ちゃん」
手を振ると
「ええ。じゃあまた月曜日に」
そこで別れてお家に帰る。
お母さんが昔プロのピアニストだったので、家には完全防音の部屋があり、そこには立派なグランドピアノがある。私は趣味程度にピアノを弾く。30分くらい弾いたら自分のお部屋に戻りテスト勉強を始める。
夕飯をお母さんと食べお風呂に入る。ちょっと早いが今日はもう寝ようと思いお母さんにおやすみを言い、電気を消して布団に入ったのが夜の9時半ごろ。
目を閉じると不思議と「一色白夜」という名前が思い浮かんだ。あの冷めた目と声を忘れられない。
もう会うことはないのかな?と思いつつ深い眠りに落ちていった。
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