第4話初めての出会い 運命の出会い

 11月。季節的には秋と冬の間。あれだけ美しかった紅葉も枯れ始めたそんなある日の出来事。

 ~白雪side~

 今日のお昼は緑ちゃんと学食に来ていた。たまにはお母さんに朝、ゆっくりしてもらいたいと思い、緑ちゃんと学食でお昼ご飯を食べる約束をしていたのだ。

「緑ちゃんはなに食べるのかなぁ?」

 私はなかなか食べるものが決まらなかったので緑ちゃんに聞いてみた。

「ん?私は日替わりランチにするわよ」

 と言って券売機に並ぼうとする。

「そっかー。じゃあ私も日替わりランチにしよっと」

 と言ってふたりで一緒に券売機に並んだ。


 ランチを受け取り(今日はシーフードカレーだった!)ふたりで座れる席を探して椅子に腰かける。向かい合う形だ。緑ちゃんはお弁当の時と同じで黙々と食べる。味の感想を聞いたことがない。

「このカレーおいしいねー。プロの人が作ってるみたい」

 と私が話しかけると

「本当にプロの人が作ってるはずよ」

 と答えてくれる。

「えっ?!本当にプロの人なの?」

 驚いた。去年と味が違うなとは思ったけど……。

「あっそうね。白雪は今年に入って初めて学食に来たものね。実は今年の生徒会長が学食のクオリティ上昇を公約にしててね、それを実現するために本当にプロのコックを学園で雇ったのよ」

「へぇー」

 言葉もない私。

「緑ちゃん。最近部活はどう?今年は全国大会行けそう?」

 緑ちゃんはバスケのスポーツ推薦で入学したのだ。

「ウィンターカップって言ってほしいけど……まあ、かわいいから許すわ。そうね……今年は決勝まではきっといけるわ。決勝はやってみないと分からないっていうのが本音ね」

 緑ちゃんはあくまでも現実的だ。

「えへへ。ちゃんとお弁当持って応援行くからね」

 その時さっきまで賑やかだった学食が少し、いやかなりトーンダウンした。


 ~白夜side~

 昼休み。

 自分のために弁当を作る趣味はない。というか人のためにも作る趣味はないが。

 この学園の学食は今年の生徒会長が公約で示した通りクオリティが上がった。しかも学園側から補助金も出て大幅に値下げしたのだ。

 はっきり言って1人分の弁当を作るより学食で食べた方が安上がりなぐらいだ。

 よっていつも俺は学食で昼飯を食べることにしている。

 スタートダッシュで学食に駆け込むアホがクラスにはたくさんいるが、あれは本当にアホだ。

 みんながみんなスタートダッシュするから昼休みの最初は券売機に行列ができる。

 たった15分ずらすだけで並ばずに食券を買うことができるのに。

 きっかり15分、本を読むとそのまま読みながら学食に向かう。いつも決まって日替わりランチを選んでいる。

 1人なら席を探す手間もほとんどない。だが1つだけ学食で嫌なことがある。それがこれだ。

 学食に入るとさっきまでの騒がしさはどこへやら、全員とは言わないまでも6割りぐらいの人間がひそひそと話始める。

 なぜ、自分がこんなに注目されるのか分からない。

 耳からひそひそと聞こえてくる声をシャットアウトしてランチを受け取り席をざっと目で探す。カウンターは埋まっていた。というかカバン置くなよ。迷惑な奴らだ。

 ちょうど4人掛けの席に座っている女子生徒ふたりを見つけた。相席させてもらおう。見れば片方はもう食べ終わっていたし迷惑にならないだろう。


 そう思い、その席に座った白夜はこの日運命の出会いを果たした。



 学食が静まりかえった。始めりは白夜が「すみません。相席しても良いですか?」と頼んだところからだ。緑は目を丸くし驚いている。絶句とはまさにこのこと。そして白雪は驚きつつもいつもの柔らかな微笑みで「うん。いいよー」と答えた。


 その笑顔を見て白夜はなにか胸が騒ぐような気がしたが、努めて顔に出さず、無表情で「ありがとうございます」と返してランチに手をつける。


 ふと白雪は話しかける。

「えっと……。一色くん、だよね?」

 ずいぶん甘い声だと思った。だからだろうか、食べる手を止めて、ついでに読んでいた本から顔を上げて声の主を見る。

 大きな瞳。吸い込まれそうとはこの事かと思った。本ではいくらでも読んだことがあったが、実物はまったく違った。

 そして柔らかな微笑み。天使が微笑んでもこうはならないというぐらい美しかった。

 なにか答えなくては。初めて白夜はそんなことを思った。

「はい。なんで俺のことを?」

 そんな短い言葉しか言えなかった。

 学食中がふたりのやりとりに注目している。

 そんなことにまったく気がつかないふたりと、気がついて冷や汗が止まらない緑。

 白雪の柔らかな微笑みは一転、少し困ったような顔になって

「えっと……。だって一色くん有名だよ?」

 と続けた。

 困ったような顔を見て焦る白夜。なぜだろう。この人にそんな顔してほしくないと思った。そんな初めての感情に戸惑う。

 そこで緑が話を区切った。

「白雪。そろそろ教室戻りましょう?授業の準備していないもの」

 と言ってさっさと片付けに行こうとする。

「あっ。待って緑ちゃん。私も行くから。じゃあまたね一色くん」

 今度はまた柔らかな微笑みでそう告げて席を立っていった。

 その後「一色が東雲白雪に声をかけた」と学園中の話題になるのだが、白夜はそのことを知ることはもっと後になってからだった……。

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