3. 再会、そして

その日、僕は友だちと歩いていた。

幼馴染の京也だ。


京也はとても明るい性格で、人当たりが良い。

昔から引っ込み思案で友だちができにくかった僕とも仲良くしてくれていた。


今日も、僕が彼を教室に迎えに行くと、

彼と同じクラスの友人に遊びに誘われていた。

僕との約束がなければ行っていただろう。


「京也」

少し先を歩いている幼馴染を呼ぶ。


「ごめんな。本屋によるのは今日じゃなくてもよかったのに。」


性格も交友関係も正反対の僕たちの唯一といってもいい共通の趣味。それが読書だった。


何に謝っているのか、僕は言わなかったが、彼には伝わったらしい。


「ばーか。あいつらと遊ぶのだって、今日じゃなくてもできるんだよ。」


今日はヒロと約束してたんだから、いーの。


そういってにかっと笑う。


こういうところだよなあ。

僕と京也の違いは。


ありがとう。僕は心の中でつぶやいた。


そうしているうちに花屋と眼科の前を通り過ぎ本屋が見えてきた。


そこに入ろうとしたとき、


「あ、おーい、そこの少年!」

後ろから声が聞こえた。


聞き覚えのある声と単語。


まさか、と思った。


確かめたい。いや、でも振り返りたくない。


僕が逡巡しているうちにまた声がかかる。

「きみだってば、きみ!」


あぁもう絶対僕だ。


諦めて、そして覚悟を決めて振り返る。


「なんです・・・か・・・。」


しかし、そこにいた彼女の姿は、僕の予想とは違っていた。

その人は有名女子校の制服を着て、

肩を少し超えた髪をゆるく内側にまいて、眼鏡をかけていた。

いかにも清楚なお嬢さまといった感じだった。


「だれですか・・・」

思わずつぶやいた。


僕の唖然とした顔が面白かったらしい。

彼女は笑い出した。


その様子は、僕の知っている彼女で、少し安心する。




「なあに。もう忘れちゃったの。」

笑いを収めた彼女が言う。


「・・・いえ、あの。あまりにも記憶と違ったので・・・」

分かっているくせに・・・

そう思いながら、正直に答えた。


「ちょっと、ヒロ。どういう関係なんだよ。」

この突然の出来事に、僕以上に呆然としていた京也が、我に返ったように僕の腕をひいて、小声で聞いてきた。


「初めまして、ミズノといいます。ヒロ君?とは、この前知り合って、ちょっと・・・ね?」


僕の名前を言うとき、そこは少し上がり調子で、疑問詞がついているようだった。

当然だ。彼女は僕の名前を知らないのだから。


彼女が意味ありげに僕を見るもんだから、京也のいぶかしげな視線が僕に刺さる。


「いやあの、うん。ちょっと、なんでもないよ。」


彼女との出会い方は複雑だった。それはもう、一言では表せないほど。

そういうしかないじゃないか。


簡潔に説明するのは苦手だ。

それになんだか、‘降ってきた’というのは言ってはいけないような気がした。


一応女の人、だし。


そんな僕の葛藤なんて知らない、

というように(まあ実際知らないのだけど。)彼女は僕に話しかけてきた。


「それより、ねえ、きみ、連絡先教えてよ。」


・・・はあ?


彼女の言動は、いつも僕の予想の斜め上を行くようだ。


「いいじゃない。ここであったのも何かの縁でしょう?」


いやいや、そんな問題じゃない。


僕がしり込みしていると、京也が言った。

「まあまあ、いいじゃんか。代わりに俺が言おうか?」


こいつの番号はですね・・・


本当に言い始めた京也を慌てて遮る。

「あーもう。わかった。わかりましたから。」


こうして、何だかよく分からない内に、僕とミズノさんは連絡先を交換した。


そして彼女は、


「また連絡するねー」


と大きく手を振りながら、満足そうに帰っていった。

彼女を見送った僕たちの間に、静寂が帰ってくる。


京也が言った

「・・・嵐のような人だったな。」


「うん。」


全面的に同感だった。

「連絡先、教えない方が良かったか?」

京也が言った。


さっき無理やり言おうとしたことを気にしているようだ。


「・・・いや、大丈夫だよ。」


京也が面白がって言ったんじゃないことは分かっている。

僕が本当に嫌そうにしていたら、京也は教えなかっただろう。

彼はそういうやつだ。


証拠に、彼は自分にも教えてくれとは言わなかった。


本当に気にしていないと言いたかったけど、

あまり言いすぎてもわざとらしいかなと思い、僕はかわりに行った。


「店、入ろうか。」


「ああ。」




そうして、僕たちは日常へ戻ったのだった。


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