第5話 蚊の言い分
ちょっとそこ行く優しそうなお兄さん、あたし達の話を聞いてよ。何であたし達蚊が、この世の害虫なんて呼ばれなくてはならないの!
あたしだって、好きこのんで人間の血を吸っているわけじゃないのよ。卵を生むため、そうよ、ベイビーのためなのよ~。
それを、やれ痒いだの、羽音がうるさいだのって、人間はいつもあたし達を目の敵にしているのよ。
あたし達にだって、生きる権利はあるはずよ。
そりゃあ、牛の血が好きだって娘もいるわ。彼らはあたし達のことを、しっぽを振って追い払う振りをするだけですもの。人間とは大違いよ。
まあ、たまには刺した針が抜けなくなってしまうことだってあるわよ。あれだけの脂肪ですもの。でも、それもご愛敬。夜のうちにはちゃんとお腹いっぱい戴くことができるのよ。
それに比べてなに、人間のケチなこと。
あたし達はねえ、一回にたった2ミリグラムの血しか吸わないのよ。これは人間の血液量の3百万分の1なのよ。
それなのにもう、目くじらたてちゃって。
それに、最近気を付けた方がいいわよ。
人間の血、不味いわよ。
ただ不味いだけならあたし達も我慢もするわ、でもね、薬臭いのよ。この間も、ちょっと吸ってみたらもうびっくり、アルコールやら眠くなる薬やら、はたまた目の前がピンク色になる時もあるのよ。
あたしのお友達なんか、腕に張り付いたまま死んでしまったんだって。
あっ、家のドアーが開いたわ、入るのは今よ!
えっ、なにこの臭い?
蚊取り線香の臭いだわ。私この臭いダメなのよ。
あーっ、気持ち悪くなってきたわ。いったん隣の部屋に退散だわ。
人間って、本当にあたし達のことが嫌いなのね。いつも、部屋中この臭いでいっぱいなんだもの。
あら? この部屋は蚊取り線香の臭いがしないわね。
それに何、さっきのお兄さん、裸でいるじゃない。まるであたし達に血を吸って下さいって、言っているようなものね。
いいわよ、それなら戴くわー。
「わあっ、母さん風呂場に蚊がいるよー。殺虫剤持ってきてーっ」
今度は何よ、スプレーのガスが・・・ ゲホッ ゲホッ ゲホッ
ふうー、危うく殺されるところだったわ。
ねえ、あたし達、たかが蚊よ~。何でそんなムキになって襲いかかってくるのよ。
もう一度言っておくわ。今あなた達人間が使っているその殺虫剤やスプレーねえ、あたし達蚊を殺すだけではなく、みーんなこの地球にとっては有害な物質なのよ。気付いている? つまり、あなた達人間は自分たちの手でこの地球を・・
パシッ!
「母さんやっと捕まえたよー。あーっ、こいつ誰かの血を吸ってるぞ・・・」
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