あ、しまったどうせこいつ出すなら白昼に襲わせたらアルハザードごっこができたのに!(するなよ)

「―――!?どうした!?」

女人馬は困惑した。床に座り、目を閉じて魔法に取り掛かっていた女賢者。彼女が突如剣を手に取って立ち上がり、上からの攻撃を受け止める構えに入ったからである。

直後。

女賢者がよろめいた。まるで、強烈な攻撃を受け止め損ねたかのように。その視線は部屋の中央、

戸惑っている間にも、女賢者は後退。剣を抜き放ち、さらにかのような動作を幾度か。とうとう、吹き飛ばされた彼女は壁に叩きつけられた。

この段階で、女人馬はようやく状況を理解した。が女賢者を襲っている!!

槍を手に取った女人馬は叫んだ。

「敵か!?私には見えんぞ!!どこにいる!?」

傍らでは吟遊詩人が腰へ手をやり、そして引き抜いた短剣を投じた。女賢者を襲っている者がいるであろう位置へ。

鋭い攻撃。

されどそれはむなしく虚空を通り抜けた。既にそこにおらぬのかあるいは実体を持たぬのか。これでは手助けしようがない。

どうすればよい!?


  ◇


吟遊詩人が投じた短剣。それは、間違いなく浮遊する怪物に命中し、そしてむなしく

女賢者は目にした光景とそして女人馬の叫びから、ようやく敵の正体を悟った。こいつは幻影。それも私にだけ見える!!

幻影の怪物イリュージョナリー・ビースト。秘術によって与えられる死の幻覚である。

位置探知ロケーションの術を返されたのだ。呪詛を送り付けられたのである。敵の力量は恐ろしく高い。

最悪だった。幻であろうとも敵の与えてくる衝撃は本物だ。時にひとは幻覚でショック死すらする。ましてやこちらは魔法で生命を支えられた死者である。すなわち敵はこちらを殺せるのだ。

術を破るか効力が終了するまで逃げ回るしかないが、それは難しい。相手は幻影。こちらを腕力で上回っている。魔法を唱える暇はない。仲間たちの援護は期待できないだろう。彼女らは魔法解除ディスペル・マジックを使えない。もちろんこの小路じゅうを探し回ればそれができる術者など幾らでもいようが、そんなことをしている余裕があるかどうか。

態勢を整えた女賢者は、敵の爪を迎え撃った。

強烈な一撃。衝撃で剣がすっぽ抜ける。致命的な失策!!

横薙ぎに振るわれた剛腕が狙ってきたのは、頭。

だから、女賢者は魔法を解除した。首と胴体を接合する形状変化シェイプ・チェンジの術が消え去り、支えるものの無くなった頭部を、幻影の怪物イリュージョナリー・ビーストが殴り飛ばす。加えられるはずだった破壊力はしかし、その大部分が無駄となった。威力が逃げたのである。くるくると回転した生首は壁に激突する瞬間に。胴体と繋がったままならば頭蓋を割られていたかもしれぬ。

そこで、女人馬が叫んだ。

「これを使え!!」

投げ渡されたのは魔法の槍。幻影をすり抜けて届いたそれを構え、女賢者は強烈な刺突を放った。

血の気の引くような音。

現実そのものの臨場感で、幻影の怪物イリュージョナリー・ビーストは串刺しとなった。しばしもがいたそいつも槍の魔力には抗しきれなかったか、やがて動きを止め、そして霧散していく。

幻影は終わったのだ。

「終わった……のか?」

「……ぁ…」

問いに頷く女賢者。ついた彼女は、槍を持ち主へ返すと礼を告げた。

一件落着。

そう思われたが、しかし現実はそう甘くはなかった。

「あぁ……これ、どうしよ?」

吟遊詩人の発言に部屋の中を見渡す女たち。

女賢者が吹き飛ばされて激突した壁にはヒビが入っているし、剣を振り回して立ち回ったので調度にも損害が出ている。家主に怒られるだろう。間違いなく。

皆が頭を抱えた。

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