しまった大賢者の時と違うから敵がこっちを殺しに来ない(何しろ殺したと思ってるからな)
「ねえねえ。あんたたちほどの魔法使いなら、術で探れないの?」
小路の一角。吟遊詩人が問いを投げかけた。
適当な商店に借りた部屋―――隅には来客用の棺桶がある―――で車座に座った一同は会議中である。まあやることがなくなったので休憩中、というのはあるが。
「……」
女賢者は頷いた。
現在ならば同じ都市内部である。使ってみる価値はあろう。
呪句を唱え、印を切る。万物に宿る諸霊は女賢者の願いを受け容れ、助力を与えた。
直後。
女賢者の意識の手は、目的の品へと届いた。
◇
黄昏よりもなお昏い、闇の奥底。
祭壇に安置されているのは、大きなランプである。黄金色に輝くそれは青銅で出来ているのだろうか。
その外側に張り巡らされている縄と、そして吊された札は呪符であろう。文言と図形で魔力を封じ込められたらそれらは、鳴子だった。魔法的な侵入者を拒絶するための警報装置。
今。その機能が活性化し、連動していくつもの魔法が目覚めた。
◇
「───?」
何と言うことのない魔法のはずだった。目標の方角は“なんとなく”伝わる。
それでも魔法は正常に働いた筈である。
なのになんだ。あちら側から伝わってくるこの感覚はなんだ。闇の向こうよりこちらに向かってくる怪物は一体なんだ!?
───GGGGGGOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
女賢者が正気に戻ったとき。
部屋の中央に浮遊していたのは奇怪な獣であった。目を爛々と輝かせ、頭部は狼に似ている。分厚い胸板と、両の腕からは恐るべき怪力が予想できた。
しかし、そいつが奇怪なのはそんな点ではない。
なかった。この怪物の下半身は、まるで虚空にとけ込むかのように見えなかったのである。
一本の体毛も、どころか皮膚すら持たず筋繊維が剥き出しのそいつは、女賢者をギロリ、と睨んだ。
「───!?」
女賢者が剣を掴んだのはほとんど反射的なもの。
振り下ろされた爪が、鞘に収まった剣へ激突。受け止めた女賢者はよろめいた。こいつは
陽光の差し込まぬ部屋で、死闘が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます