昔友人に「くっころの魔法って回数制やろ?」って聞かれましたが流派によるとしか(呪文を事前に準備しておく流派もある)

星明りが出始めた頃だった。

魔法使いの少女が泊まっていたのは街の中腹にある宿の一室である。彼女は安心していた。馬に魔法をかけ、限界以上の能力で一昼夜を駆け抜けてきたから。代償に馬は泡を吹いて死んだが、追手はついてこられまい。人間という荷物を積んでおらぬ人馬ケンタウロスは別かもしれぬが、奴は街に入れぬ。いや、そもそもあの死にぞこないアンデッドに滅ぼされた可能性すら十分あった。なんたる幸運か。

これも暗黒神の思し召しであろう。後で―――人目のあるここでは憚られる―――祈りを捧げねば。

ここで英気を養い、十分に体力を取り戻せばまた移動を開始する予定である。

白湯を呑み、寝台代わりに敷かれた敷物へと横になろうとしたとき。

こんこん

扉をノックする音に、少女は怪訝な顔をした。

「お客さん、ちょいといいかね」

「?はい?」

声は、宿の主人のものだった。何かあったのだろうか。

扉を開けると、見覚えのある顔が二つ並んでいた。ひとつは声の主。宿の主人である。

そしてもう一人。

そいつは、女だった。凜とした顔立ちに長い黒髪は両側で別々に束ねている。村娘風の衣装に槍、という装備がミスマッチだった。

だがそんな事は問題ではない。

―――こいつは!?

撒いたはずの追手である女人馬。彼女がこの街にいる事自体は想定の範囲内だがどうやって中腹まで上がってきた!?いや、を持っている、だと!?

反射的に扉を閉じる少女。それが彼女の命を救った。

扉を突き破って来たのは、魔力の輝きを備えた槍の穂先であったから。

「ひ、ひぃ!?」

「後で弁償する!こいつは罪人なのだ!!」

扉の向こうでは宿の主人と女人馬のやり取りが響いている。人間の姿をしていようと、やはりこいつは追手だ!!

自体を把握した少女は即座に鍵をかけた。奮発して高めの宿を取っておいてよかった。この隙に逃げねば!

槍が引かれ、扉に2つ目の穴が開く合間にも少女は荷物を集める。

窓は小さい。人間が通り抜けられる大きさではなかったが問題ではなかった。これから吹き飛ばすのだから!

少女は、指輪に手を伸ばした。


  ◇


宿の中で戦いが始まっていたころ。

女賢者は、宿の外。窓の前にいた。退路を断つためである。まあこの窓の大きさでは逃げられまいが。

間違いだった。

中から怒声が聞こえて来た直後。

ぴしり。

日干し煉瓦で出来た壁が、ひび割れた。

ギョッとして後退しようとした女賢者の前でそれはたちまちのうちに広がり、爆発した。女賢者へと襲い掛かる破片。

されどそれはする。死者は死なぬからである。彼女らを殺すには、魔法が必要なのだ。それもすこぶる強力な。

女賢者は、見た。もうもうとたちこめる土煙の中立ち上がった、蒼い肌の巨体を。

人間に似ている。あごひげを生やし、筋骨隆々とした体躯と煙のような下半身を備えるそいつの頭は、2階建ての家屋よりもなお、高みにある。

妖霊ジン。魔法使いに使役される、強壮なる霊であった。

その背後より歩み出てきたのは、ランプを抱え指輪をした魔法使いの少女。

「―――さあ。邪魔する者は全て殺せ!」

命令を受けた妖霊ジンは、目を爛々と輝かせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る