おかしい。こないだまでハゲてたのになんか格好いいぞ(飛べる乗騎自前で用意できる時点でくっころでは強キャラです)

その男の子が飛び込んだ敵地は、空中だった。

下方に広がる星空と、そして幾つも浮かぶ雲の大地。そのうちのひとつ。巨大な面積を持ち、中心に屋敷を備えたところではすでに戦端が切って開かれていた。見て取れる範囲だけでもそれは凄まじい勢いである。まだ何百メートルも離れているというのに届く怒声。ぶつかり合う剣戟の音。稲妻ライトニング火球ファイヤーボールの轟音が耳を傷めつける。

懐の木札をしっかりと握りしめるのは兄。本来であれば知人の長椅子に便乗して来るはずだったのだが、彼女は著しく体調を崩しており留守番なのだった。代わりに借りてきた札には浮揚レビテイトの魔法が付与されている。これがなければ墜死してしまう。

ゆっくりと戦場へと降下していく彼や、同時に飛び込んだ魔法使いたちの集団。戦場はそんな彼らも、盛大に迎え入れた。飛来してくる完全武装の武人、という形で。

―――黄布力士!?

兄にはそいつに見覚えがあった。つい先ごろ襲われたばかりである。手にした武装が剣であることを除けば顔立ちまでそっくりだ。術者が同じであるが故だろう。奴は強力だ。こんなにゆっくりと降りていればいい的になる!!

隣を降下していた魔法使いも同じことを思ったか、慌てて担いだ袋を開いた。

「行け!奴を殺せ!!」

袋から飛び出していったのは何十羽という鷹。よくぞ人が担げる袋に収まっていたものだ、と感心させられるほどの彼らはただの猛禽ではない。嘴が鉄でできた彼らの名を鉄嘴神鷹てっししんよう。巫蟲の粋を集めて作られた狂暴な魔獣たちである。

四方八方から襲い掛かる魔法の鷹たち。

これはいけるか?と兄も希望を抱いた時。

黄布力士が手にした剣。魔法を帯びたそれは、強烈な雷をへと噴出した。そう。彼に襲い掛かる魔獣どもへ向かったのだ。巻き込まれ、薙ぎ払われていく鉄嘴神鷹てっししんよう

鉄は雷を引き寄せる。当然の結末ではあった。

恐るべき威力。

それで終わらない。

空中で彼は、己へ鷹を差し向けた魔法使いを逃がさなかった。驚くべき太刀筋が襲い掛かる。

ただの一太刀で、魔法使いは真っ二つとなった。左右別々に落下していく死体。

それが、引き金となった。

その場に居合わせた魔法使いたちが、次々と矢を放ち、魔法を詠唱し、魔法生物をけしかける。

無駄なあがきだった。

武人の姿をした魔法生物は、剣で矢を払い、魔法を甲冑で耐え、魔法生物を素手で絞め殺していく。

力量が違いすぎた。単独で一軍にも勝ると言われるだけの力はある。

黄布力士は、再び剣に霊力を集中。雷を放とうというのであろう。もちろんそうなれば、最も近い場所にいる兄が真っ先に巻き込まれるはずだった。

迫る死。それでも彼は、呪句を唱え抵抗しようとする。

―――その、刹那。

とすっ

まさしく雷が放たれる直前、訳の分からぬものが出現していた。

黄布力士の胴体。それを斜めに貫通する、黄銅色の槍の姿が。

そのをたどって目をやれば、上昇してくるのは黄金色に輝くカブトムシではないか。そいつに跨ったつり目の女は、立て続けに呪句を唱え腕を振り上げる。

空中より出現する無数の槍。それは、瀕死の黄布力士へと襲い掛かった。

血も凍るような音が立て続けに上がる。

落下していく敵影と、上昇してくるカブトムシ。それを見た兄と魔法使いたちは、生き延びたことを悟った。

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