東洋系って変なアイテムがいっぱいあります(おもろい)

魔法使いにとって、門派の術は秘伝である。

故に彼らは魔法を隠す。人前で大々的に大きな魔法を用いることは、術の秘密を見せることと同義であるからだ。とはいえ秘密主義も行きすぎると食って行けぬから、余人相手に使うのは見られてもかまわぬような小さな術である。それですら、時に驚くべき力を発揮するわけだが。

娘が人前で使った魔法も椅子に命令を下しただけであって、空飛ぶ長椅子を作る魔法そのものは秘中の秘である。もちろん修理を人に見せるなどもってのほかだった。

「だからね。じーっとみつめられてると修理ができないんだけど……」

娘の前に座っているのは小さな女の子。兄妹の妹であった。

わくわくした顔の彼女は首を傾げる。

「……だめ?」

「駄目」

「どうしても、だめ?」

「絶対ダメ」

「……(しゅん)」

こんな塩梅である。

追い払われた妹はトボトボと野営地に戻っていく。これでようやく娘は修理に取り掛かることができた。さっさと修理を終わらせ、仮眠をとるのだ。女武者は死者であるから、夜が明けてしまうと行軍できぬ。時間は有限である。

彼女の魔法は西方ならばいわゆる付与魔術エンチャントに分類されるものである。早い話が魔法の道具を作ることに特化した魔法であった。言い換えると魔法の道具がなければ大したことはできぬ。

昼間、幾つも魔法を使って疲弊した体に鞭打つ。

背負い袋から取り出したのは小刀やら木槌やら手斧やら。様々な道具を用いて手早く長椅子を分解し、無事な部分を組み合わせ直し、修理しきれぬ損傷部分は適当な樹木から切り出した添え木を当て、縄でぐるぐると補強し、最後に取り出した筆で顔を描き直してやる。

「……できたー」

急ごしらえにしてはよくできた方だと娘は自画自賛。これで椅子としては実用に耐えるであろう。あまり多人数が座らぬのであれば。

何にせよ疲れた。もう魔法は使えない。しばし休み、夜が明ける前に出発しなければ。

娘は、椅子を担いで野営地へ戻った。


  ◇


「死ぬって、どんな感じなんですか?」

「……ぅ…」

山道の行進中、娘は女武者へと尋ねた。

先頭を進むのは生首を抱えた女武者。甲冑を纏い、尻鞘で保護した太刀を佩き、背負子に山のような荷物を背負う彼女はよく歩けるな、と思えるほどの剛力である。その左右を弟子の兄妹たちがそれぞれ進み、後ろに娘が歩いていた。椅子はふよふよと載せられるだけの物資を積載してついてきており、一行の最後尾にはやっぱり山のような荷物が積まれた熊?の骸骨が四足歩行してくる。女武者が作った骸骨兵だそうな。

明らかにこの人数で運べる物理的限界を超える量の荷物である。太陽神に見られたら怒られそうだ。

「………ぁ…ぉ…」

「そうなんですか……」

女武者の言葉に娘は震え上がる。死んだ肉体の寒さ。辛さ。いかなる生の喜びも感じぬ。土の寝床のみが安らぎ。陽光がもたらす不快感。人前に出られぬ姿。何より、そんな不自由な体で子育てをしている、というのがもう、どれほどの困難な生き方か。自分には無理そうだ。死んだら素直に生まれ変わろう。

等と考えながら、娘は歩いた。

やがて、夜が明ける。今日の行程を終えた一行は、適当な岩棚を見つけると野営に取り掛かった。

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