またホラーみたいな(だからダークファンタジーだってば)
五感を封じることは、霊感を強める事と同義である。
古来より、霊力を高めるために自ら目を潰すということは行われて来た。かの暗黒神も、自らの目を封じることで深淵なる叡智を得たという。あるいは単眼巨人の一族も、鍛冶という魔法を行うが故に目がひとつなのだとも。
剣士は、それらの伝承を実感していた。
―――なるほど。よくできている。
廃屋で目覚めてからはや数日。光は戻らぬが、代わりに他の感覚が鋭敏となった気はする。床を伝わるかすかな振動。外から漂ってくる匂い。聴覚。果ては味覚までを以前よりもはっきりと、感じ取れた。この状況に適用しようとする肉体の必死の努力のたまものであろう。
とはいえ。いまだに立って歩く事すらままならぬ。
体が弱りすぎているからだった。おまけにこの状況では火も使えぬ。厠に行くだけで子供たちの助力が必要である。
自分を救ってくれた魔法使いの女武者は、杖を拵えてくれた。何の変哲もない木の棒であるが、この状況では唯一先を知る手がかりである。とはいえ恐る恐るにしか前へ進めぬから、大して役立っているとは言えなかったが。
廃屋はそこそこ広い。かつては屋敷だったのではないか?とのことだった。今ここに住み着いているのは女武者と、その弟子の兄妹。剣士。そして、もう一匹。女武者が作ったという魔法的創造物。ある種の
女武者は時折狩猟や採集に出かけ、留守を剣士に頼んだ。子供たちに助けられる側である剣士としては恐縮していたが。
幾つか不思議な点もある。
まず、女武者たちの生活が昼夜逆転している、ということ。さすがに夜と昼の寒暖差くらいは目が見えなくとも分かる。そこから察するに、この師弟は昼に眠り夜に活動しているように思えた。まあ彼女らは魔法使いだからそこはおかしくもなんともないのかもしれない。
だがもう一つ。
女武者。彼女の気配は本当に希薄で、まるで死んでいるのでは?と思うほどである。以前、よろめいた拍子に彼女の手に触れる機会があったが、驚くほど冷たくそして脈が感じられなかった。女武者はすぐに手をひっこめたが。おかげでどういう事か聞きそびれてしまた。更には、彼女が眠るとき、どうやら外へ出て行っているようなのだ。一体どういうことなのやら。
分からない。分からなかったが、この魔法使い師弟が大変に人の情に篤い事だけは実感として理解できた。魔法使いは門派の魔法の秘密を大切にするという。それを隠そうとしているだけかもしれない。もちろん部外者である剣士にそれを盗み見する権利などないしそうするつもりもないから構わなかったが。
こうして、平和な日々が過ぎて行った。
◇
女武者は、今のところ剣士に対して秘密を守れていることに安堵していた。
己が死者である、という秘密を。
子供たちには事前に言い含めてある。女武者が不死の怪物である、ということは言ってはならぬと。ふたりもその辺の事情は心得たもので、随分とうまく立ち回っていてくれた。
剣士の存在は、子供たちにとってもいい影響を及ぼしているようである。自分はどうしても狩りに出かけなければならぬ。一応、骸骨兵を守備に置いているから安全は確保できていたが、子供たちだけを廃屋に残して行くのは心苦しかった。大人が一人いてくれれば大分違う。
子供たちを連れて旅を初めてから、ようやく。女武者が抱え込んでいた気苦労が解消されつつあった。
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