あれだ、第三者が見ると明らかにやばいシーンだ(誰も嘘はついていない)

剣士が目を覚ましたとき、そこは闇の中だった。

───ああ。まだ夜なのだな。

そんなことを思う。それにしても一筋の光すら差し込まぬ部屋とは。自分はどこで眠ったのだっけ……

跳ね起きた。

体にかけられていたのはふかふかした大きな毛皮。床は板張りである。刀はない。いつも手の届く所に置いているはずが。

「ここは……」

思い出す。そうだ。己は賊の方術師に敗れ、崖から河へ落ちたはず。

その時だった。枕元で、何者かが動いたのは。

───誰もいなかったぞ!?

息遣い。鼓動。そういった、生きている者であれば当然備えているであろう気配が全くなかった。

この期に及んでまったく何も見えぬ。一筋の光すらないとは!刀を手探りで探す。見つからぬ。

剣士が感じたのは、恐怖。

彼が幼子のように叫び出さなかったのは、続いて近づいてきた気配のおかげだった。

「あ。おきたんだ」

聞こえてくるのは女児の声。舌足らずなのが場違いとも言える。

そして、もう一つの声。

「お師匠様。水汲み終わったよ」

男児だった。たぶん。姿が見えぬので断言はできぬが。しかし、この闇の中で、この子供たちはどうやって歩き回っているんだろうか?

そんな疑問を浮かべつつも、剣士は残るもう一つの気配。すなわち突如出現した気配へと意識を集中し、顔を向ける。

本当に希薄な気配だった。さぞ腕の立つ御仁なのだろう。男児が師匠と呼びならわしたのはこの人物に違いあるまい。

とりあえず危険はなさそうだ、と判断した剣士は、だから相手に要望を訴える。

「あ……すまない。どうにも暗くて、あなた方の姿が見えないのだが……できれば灯りを用意してもらえないだろうか?」

対する男児の返答は、残酷なもの。

「あのさ、おじさん。おじさんの目は、もう見えないんだって」

闇に閉ざされた剣士の視界。それは、文字通りの意味で真っ暗になった。


  ◇


「そうか……本当に、かたじけない」

剣士は、己を介抱してくれたという魔法使いへ頭を下げた。どのような姿かは分からぬが、子供たち(兄妹だそうだ)曰く「すごい美人のおばちゃん」らしい。何でも、魔物によって村を滅ぼされたこの子たちを弟子として引き取ったのだとか。

以上は男児の方との会話で得た情報である。この魔法使いは声が出せぬらしい(件の魔物との闘いで負った傷のせいだそうだ)。幸い霊感を持つ者とでなら会話が通じるそうで、そういった素質を備える男児が仲立ちとなっているのだ。

今いる場所は、河の近くにある廃屋。剣士は河原に流れ着いたところを発見され、救われたそうである。

もうだめか、と思ったが、人間、中々にしぶといものだと内心苦笑。

「あ、それとね、おじさん。手を出して、って」

男児に言われるまま出した剣士の両手。そこへ乗せられたのは、ずっしりと慣れ親しんだ品物。

鞘に収まった刀であった。

「これは……」

「流れ着いた時にもしっかり握りしめてた」

なんと、剣士は河原に流れ着いた時点でもしっかりと、刀を握りしめていたのだという。驚くべき執念と言えよう。柄まで分解してしっかり手入れもしてくれたそうな。ありがたいことだった。

とはいえ、目が見えぬ剣士が刀を手にしたところで、いかほどの事ができよう?

それを思うと気が沈む。

「あのさ。お師匠様が、気落ちするのは分かる。けれど、せっかく助かった命なんだから、その意味をしっかり考えなさい。だって」

「……かたじけない」

剣士は、姿を見ることが叶わぬ男児。そして、その師匠へと頭を下げた。

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