災難にもほどがある(逆恨み)

すべてが終わった後。

雨が降り注ぐ山中に取り残された神官たちは起き上がり、あるいは加護を用いて傷を癒した。肩を支え合う者達もいる。

そんな中。老いた神官は、倒れ伏した神官長のもとへ歩み寄った。

「……」

微かな。本当に微かな声がする。見れば、神官長の口がほんの少し、動いているではないか。とはいえもう、助かるまいが。

老いた神官は相手の口元へと耳を寄せた。末期の言葉を聞き取るために。

「……悪い…夢を見て…いたよう……すべて私の…責……追うでない……ぞ…」

そうして、神官長は息絶えた。

「……亡くなられた」

老いた神官の言葉に、皆が打ちひしがれる。このままでは立ち直れまい。だから老いた神官は、亡き長の遺言を口にした。

「すべて私の責だと。追うなと、仰られた。

さあ。皆の者。長を連れ帰ろう。葬るのだ」

葬る。それは皆の心に少しは響いたらしい。士気を喪失していた皆がよろよろとだが、立ち上がる。

比較的軽傷の若者が亡骸を背負い、他の者達はそれを支え、あるいは散らばった武装を拾い集めた。皆が山を下り始めた時、老いた神官は背後を振り返る。

「───今すぐにでも奴らを追って、八つ裂きにしてやりたいです」

声をかけてきたのはまだ、年端もいかぬ侍者アコライトだった。それに神官は首を振る。

「長の最後の命だ」

「分かっております。しかし……」

「さあ。行こう」

こうして、彼らも山を下った。

雨はいつまでも降り注いでいた。


  ◇


山中の岩棚。女武者が荷物と首を隠していた場所では、命からがら逃れてきた3人が雨宿りをしていた。

「おばちゃぁん…死なないで……」

すがりつく妹の頭を優しく撫でてやりながらも、女武者は周囲の警戒を怠らぬ。どうやら敵勢は追ってこぬようだ。雨のおかげであろう。今の内に眠り、少しでも負傷を癒さねば。体が半ば絶たれたのはさすがに厳しかった。今ならば屍人ワイトにも負けるだろう。

そこまで判断した女武者は、兄の方へと顔を向けると指示を下した。服を脱ぎ、体を拭くこと。服が乾くまで毛皮に二人でくるまり、しっかり暖まること。己はしばし眠るが、何かあればすぐ起こすこと。

「分かった」

「…ぁ……」

そして最後に、一言。

───よく頑張った。

「…うん」

そうして、女武者はしばしの休息を取った。

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