ところで私、元々巨大ロボットもの書いてたんですが(いつの間にかファンタジー作家になってる気がする)

「やべえ、逃げられるぞ!」

姫騎士が踵を返した先で争っているのは巨大極まりない樹人トレントと、やはりとてつもない大きさの恐竜。死者である姫騎士ならば恐竜に踏まれても死ぬことはなかろうが、神官戦士があれに巻き込まれれば確実に死んでしまう。かといって、旅人の矢では致命傷にならぬ。首なし騎士デュラハンはとてつもなく強靭なのだ。忌々しいほど的確な戦術判断と言えよう。

故に、ふたりは敵手を追いかけた。 


  ◇


首のない女がこちらへと駆けあがってきたとき、変身妖精プーカの内に生じたのは、恐怖だった。

彼女が操る樹人トレントめがけ、敵が駆け上がってきた足場は恐竜。樹人は恐竜と激しくもみ合っているところだったのだ。巨大な魔獣の背を伝って、首なし騎士デュラハンがこちらへ突っ込んで来た。逃れる術はない!

首のない女は、槍を振りかぶった。童女へと狙いが定まる。

致命的な一撃。童女は、死を覚悟した。

まさしくその瞬間、時間が止まった。いや、首のない女が動きを止めたのだ。槍を投じるのを思いとどまったのである。

彼女の霊体が浮かべていたのは。一体何が?それを考えるより前に、童女は腕と化した巨枝で敵を払っていた。

宙を舞い、十数メートルも彼方へ落下した死にぞこないアンデッドを横目に、樹人は恐竜を。童女の操るまま。

そのまま、振り上げた巨体を投げ落とした先は、首のない女である。

地響きと共に、魔獣は首の骨をへし折られ、どころか地面にめり込んだ。巨大な塔のように死体が屹立したのも一瞬。

ややあって傾ぎ始めた恐竜の死体は、やがてゆっくりと。地響きを立てながら大地へと横たわった。巻き添えで何匹かの小鬼ゴブリンがつぶれているがそれはどうでもよい。肝心なのは、首のない女がこの下敷きになったということ。

とはいえ、魔法的怪物ではない恐竜では首なし騎士デュラハンを殺すことはできぬ。これは一時しのぎの処置だった。幾ら怪力であっても、この巨体の下敷きになってはしばし出てくることはかなわぬはず。

そのはずであった。

15メートルの死体が、ぴくりと動いた。

「……嘘でしょう?昼間よ?」

ぎょっとする童女。その眼前で、巨大な恐竜の屍が浮き上がり、そして投じられた。

轟音と共に着地する死体。しかしそんなもの、童女は見てはいなかった。それを投じた当人の方に注目していたから。

土を払い、槍を拾い上げ、そして立ち上がった首なし騎士デュラハン。そいつはこちらを一瞥し、そして迫ってくるふたりの妖精族にも視線を向けると、敵陣中央。すなわち敵将目がけて走り出した。


  ◇


その時、高司祭は闇の軍勢の後方中央にいた。

全軍を指揮する彼が得られる情報は限定的なものだった。使い魔が落とされたのが痛い。術者と精神的につながっている使い魔の烏は上空からの視界を伝えてくれたが、射落とされたことで苦痛すらも伝えてきたのである。

とはいえ、全体的な戦況はこちらの方がまだ有利だった。敵は強力な魔法戦力だが、絶対数でこちらが勝っていたからである。更には、昼間には小鬼ゴブリン巨鬼オーガァどもと森妖精エルフたちとの戦力比は縮まる。皮肉なことだが、魔法の威力が陽光で減衰するからだった。

このまま押し切れば勝てる。

伝令が来たのは、ちょうどそんな時。

「どうした」

「それが―――首なし騎士デュラハンがこちらに刃を向けたと!」

「何!?」

彼は即座に遠見の術を行使した。

―――あれは。

そこで暴れまわっていたのは、左腕一本で槍を振り回す首のない女の姿。

―――なんということだ!

高司祭は、即座に事態を察した。封じておいた奴の首が何者かに奪われたに違いない。いや、何者かは明らかだ。森妖精エルフたちに味方する者であろう。

大変にまずかった。あれ一騎でも、戦の趨勢が変わりかねぬ。早急に抑える必要がある。

だから高司祭は副官に後を任せると、

神の手に運ばれ、高司祭の姿は戦場から掻き消えた。いくばくかの護衛と共に。

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