全裸のロリババァが出ずっぱりです(いつものこと)

「警備がザルじゃのう……」

「しっ。奴らだって中から逃げ出す分には注意してないんじゃないかしら?」

岩妖精ドワーフの呟きに返したのはネズミの姿の童女。

彼らが隠れているのは地下深くの街路である。もっとも、それは人の類が知るいかなるものとも異なる。

石を積んで作られた建物はいずれも奇妙にねじ曲がり、見ている者の精神の平衡を揺るがす外観をしていた。

はっきり言ってしまえばおぞましい。

「しかしお前さん、よくこんな場所をすいすい動けるのう」

「風の精霊のささやきが、かすかだけれど聞こえるもの。出口がどこにあるかは分かるわ」

ふたりは物陰を進んでいき、やがて地上へとつながるのであろう横穴の一本へとたどり着いた。

振り返る神官戦士。彼の視界に映ったのは、この地下都市の中央にそびえる石の塔。

どうやら地上までつながっているのだろう。その姿は、まるで地下を支える柱のようにも見受けられた。

彼が改めて進行方向に目を向け、進もうとした矢先。

「……まずいのう。迂回するか?」

出口の周りにたむろしていたのは、何匹もの闇の怪物ども。小鬼ゴブリン大小鬼ホブゴブリンたちである。

倒すことはできよう。奴らの叫びが響き渡るであろうが。

迂回を提案した神官戦士に対し、変身妖精プーカの童女はと。

「時間がかかりすぎる。……仕方ない。疲れるから嫌なんだけど」

ネズミの姿のまま身振りとそしてを切る童女。

彼女の願いは、地の底に住まいし精霊へと届いた。

突如、横手の岩肌が小さくへこみ始める。かと思えばそれはたちまちのうちに、岩妖精ドワーフが四つん這いとなればギリギリ通れるほどのトンネルとなった。

隧道トンネルの魔法である。

「おお。凄まじいのう」

「長くは持たない。一時的に通してもらうだけだから」

「にしても、もう少し通りやすくできんかったんか」

「無茶言わないで。長くするためにできるだけ細くしたわ」

童女の言葉に神官戦士も頷いた。細くした方が長く伸ばせるというのは道理ではある。

童女はすいすいと。神官戦士はできるだけ身を縮めながら、穴をくぐった。


  ◇


そこは、星々によって照らされた荒野だった。

削り取られた地肌。ごつごつとした岩肌を晒しているその場所は、山を切り崩して作り上げられた高台に違いあるまい。

周囲に広がっていたはずの木々の姿はない。そのことごとくが伐採されたのであろうことが容易に想像できた。

「―――これは」

神官戦士の呟き。

彼が顔を出している小さな竪穴。随分と苦労をして抜けてきた出口の周辺では、大小鬼ホブゴブリンや様々な闇の怪物どもが忙しく動き回り、またそこかしこで盛大に炎が焚かれていた。

運ばれていくのは邪悪に歪み、魔法文字が刻まれた武器の数々であり、凄まじい熱気が充満している。鉱毒が川に流れ込み、水の汚染は目を覆うものだった。

そこは、闇の種族の武器工廠に違いあるまい。

森妖精エルフどもが怒るぞ」

「ええ。だから、彼らはこの地の闇の軍勢と激しく対立している」

工廠で振るわれる闇妖精ダークエルフたちのわざに戦慄しながらも、神官戦士は身を乗り出した。これだけ火が焚かれていれば、夜目の効く闇の者どもと言えども目がくらんで闇を見通せまい。

だから、彼らは無事にここから抜け出せるはずである。

振り返った先で、ちょうど鉢合わせした小鬼ゴブリンと視線が交わらなければだったが。


―――GUUUUOOOOOOOOOOOO!!


即座に叫んだ小鬼ゴブリン。そいつの喉を短剣で掻き切ると、神官戦士は童女へ振り返った。

「ああもうっ!走りなさい、こっち!!」

「うむ!」

にわかに騒がしくなった闇の工廠。その中心近くで、死を賭した追いかけっこが始まった。


  ◇


そこは深い森の中であった。

大森林を行くのは、もはや動ける者が随分と減った森妖精エルフの戦士たち。

警戒を怠らぬ彼らはしかし、緊張の極致にあった。

「―――おい。何か今、物音がしなかったか」

皆が視線を交わし、緊張感が高まった時。

木々の合間より姿を現したのは、女だった。

まず目にはいったのは血の気のない素足。鍛え上げられた腿の描く曲線は美しい。腰のくびれ、流麗な胴体。手に槍を携えた、一糸まとわぬ麗しい女体。

されど、そいつが生きた人間ではないことは明白であった。何故なら彼女には首がない。

「―――首なし騎士デュラハン……っ!」

森妖精エルフたちはその怪物の正体を知っていた。族長の娘、一族の姫が連れ帰って来た魔法使いの従者だと聞いていたのである。

「あ……あんた、言葉は分かるか?」

森妖精エルフの問いに、首のない女は。霊的な視覚を備えた者にしか目にすることができぬ、麗しき霊体の首で首肯したのだった。

だから、彼らは続けて問いを発した。彼女の名を問い、そして彼女ならば知っているはずのいくつかの事柄について質問を投げかけたのである。

女は、それに正しく答えた。

一気に消え去っていく、戦士たちの緊張。

この間合いでは魔法より槍の方が早い。高位の不死の怪物相手では、武芸に長けた彼らと言えども全滅しかねなかったから無理もなかった。

「よかった。あなたの主が今、我々の都で待っている。ついてきてくれ」

森妖精エルフの戦士の言葉に、首のない女は従った。

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