寝不足で死にそう(死にそう)
それは、魔法の心得のない者にはただの巨大な岩山と見えるであろう。いや、実際にそこは岩山なのだ。木々の合間から顔を覗かせる、切り立った断崖。
普通であればこのような場所に上ることは困難極まる。どころか生活するなど論外であろう。
しかし実際にはそこは城塞だった。石が積まれ、白く化粧された壮麗な建物が、岩山の頂上に存在しているのだ。
それは周囲。樹上に広がる都市あってのものである。城塞を維持しうる領民と、そして利便性が確保されているのだった。
今。この城へ、一人の死者が招かれた。
◇
「あんたか!無事だと信じてたよ」
城の入り口で姫騎士を出迎えたのは、美しい
彼女は、借りたローブで陽光から身を守る姫騎士を奥へと誘った。
「お前さんの息子は無事だよ」
旅人の冗談めかした言葉に姫騎士は困った顔。
「違うって?あんなに過保護だってのに。まるで親子だよ、あんたらは」
旅人が先導する城内は、
ここを攻め落とすのは容易ではあるまい。
そんなことを姫騎士は思う。
だが、彼女はここを攻め落とす手伝いをせねばならぬのだ。大切な者を手にかけることで。
―――なんと罪深いことか。
己の生き汚さに身震いする。
だが、姫騎士に拒否権はなかった。首を確保されているということは、彼女の魂そのものを握られているのに等しいのだから。
姫騎士には、自害という選択肢すらない。それが仮に可能だったとしても、彼女の魂魄は彼女の首を持つ高司祭の手に渡るであろう。
生命を失う事そのものは、実のところ恐ろしくはない。だが、その後に待っている運命こそが恐ろしい。
そんな内心の葛藤を知らず、先を行く旅人は
「それで、あのちんちくりんはどうしたか知らないか?」
姫騎士が返したのは、曖昧な返答。
「……そうか」
重大な誤解を抱き、旅人は嘆息。彼女は、短い間とは言えともに旅した仲間の無事を祈った。
やがてたどり着いた先は、城の奥。
不思議な客室であった。形状としては小さな中庭に面し、屋根がせり出した構造、と言ったところだろうか?四方にはベッド。畳まれた服が置かれたテーブルと椅子。そして、なみなみと水が張られた湯船。
確かに、気温が高く湿度も強いこのあたりでなら開放的な構造は望ましいのだろう。
「あいつは今、儀式の最中だ。でかい魔法をやっててな。後どれくらいかかるか分からん。
とりあえずここで休んでてくれ。服はそこのものを使ってくれていい」
言い終えると、旅人は部屋を辞した。
後に残された姫騎士。その、首を除いた部分は、静かに跪き、そして泣いた。
己が裏切ったことが露見せずに済んだ安堵で。
そして。
己の無力さに、姫騎士は泣いた。
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