毎回よくもまあ変な都市が出てくるな(仕様です)

森の中を黙々と歩いていくのは森妖精エルフの一団。その中でただ一人、人間族である少年は、他の者についていくので精一杯だった。

この辺りは植生が村の周辺とまったく違う。歩きづらい事この上ない。だからこそ舟で移動していたわけだが。

森妖精エルフたちの話では、この周辺は小鬼ゴブリン巨鬼オーガァが跋扈する危険地帯と化しているという。故にひとまず、森妖精エルフたちの郷へと向かう事になったのである。神官戦士や姫騎士の事は心配だが、位置探査ロケーションの魔法にも反応がなかった。徒歩で1日以上離れた場所にいるのだろう。彼らは自力で後から合流してくると信じるほかなかった。

集団の先頭では、旅人。そしてその兄だという森妖精エルフの戦士の長が、言葉を交わしていた。

「よく帰って来た」

「兄さん。この三カ月、状況は?」

「善くはない。こちらはじり貧だ。闇の者どもは里のすぐそばにまで出没するようになり、我々は事実上孤立している。外部との交通が断たれつつあるのだ。それもこれも、病によって動ける戦士が著しく減少しているためだ」

「そうか……」

そこで、戦士の長は後ろを振り返った。

彼の視線の先にいるのは少年。

「ところで、あの子供は?あれが、疫病プレーグの呪いに打ち勝てる人材なのか?」

「分からねえ。だが、高名な呪術医ウィッチドクターの推薦付きだ。何とかしてくれるはずだ」

「……いいだろう。お前の言うことを信じよう」

ふたりはやがて会話を打ち切り、そして一行はさらに半日進んだ。

その先。

やがてたどり着いた崖の上より、その集落は見えてきた。

「―――うわぁ……」

感嘆の声を上げるのは少年。

異様な集落だった。

一見、それはなだらかな丘陵の上に家屋が密集しているように見える。それが幾つも点在しているのだと。されど、その実体は異なる。

大森林の巨大な木々。その樹冠の上に、ある種の街並みが広がっているのだ。信じがたいほどの強度であった。互いに競合し合った木々の枝葉が複雑に絡み合い、その上には家を建てられるほどの強度が備わっているのである。

樹冠都市であった。

森と共に生きる森妖精エルフたちにふさわしい集落であると言えよう。

「さあ。あと一息だ。行こう」

戦士の長に促され、一行は最後の行程を進み始めた。


  ◇


都市まであと一歩、という所。

樹冠の下、木々に設けられた階段を昇りながら少年はふと疑問に思った。

「敵は、あの都市を火攻めしなかったんですか?」

都市が木々の上にあるというのであれば、それは極めて有効な攻撃のはずだが。

「ああ。燃えないんだよ。火よけの魔法がどの木にも刻んであるからな」

応えたのは旅人である。

彼女の言う通り、大きな木にはなにやら文字が彫り込まれていた。魔法語であろう。

やがて、登り切った先。

少年の目に映ったのは、まるで原野のように広がる樹冠の枝葉。そして、その上に盾たれた高床式の家屋の数々だった。

「ようこそ樹冠都市へ。我々は君を歓迎する」

戦士の長が、少年へと告げた。

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