うちの祖父がこれ戦時中やってたらしい(どれとは言わない)
―――なんということだ!藪をつついて虎を出してしまった!!
川岸にて
敵勢は矢の攻撃を防いだ。どころか、強力な魔法的怪物を繰り出してきたのだ。
水面を走ってくる首のない女。奴にも容赦なく矢が集中するが、一向に効果を発揮する様子はない。後数十歩で、こちらの前衛に奴はぶつかるだろう。猶予はない。
だから彼は前進。河の浅瀬まで飛び出すと、魔力を振り絞って祈願した。河を流れる水。そこに宿る精霊たちへと。
不死の怪物。完全武装した首のない女が踏みしめた水面。足をしっかりと受けとめるはずの足場は、役目を放棄した。
足先から水没し、転倒していく女。
互角の魔法がぶつかり合えば、結果を定めるのはこの世の理である。一切の浮力を破壊する魔力と、水面の歩行を許す魔力。ふたつが打ち消し合ったのだ。
これでよい。死なぬまでも、完全武装では動くのに大層苦労するであろう。今のうちに奴を仕留めるのだ。
再び、精霊へと祈願。大げさな身振りと、そして咆哮が捧げられ、
◇
「やられおったぞ!?」
「
河の上。小さな皮革の船でも、その光景は見えていた。
水に没した姫騎士は呼吸の必要がないから、死にはすまい。されど当面戦力としては期待できなかった。
それよりも、問題はこちらだ。
一行は追い詰められつつあった。船の動きは遅い。オールを必死でこいでも、逃げ切るのに時間がかかるであろう。
水中から迫ってくる幾つもの影。
衝撃は、真下から来た。
「―――ぎゃっ!?」
少年が悲鳴を上げ、その場から飛びのく。見れば、船底が焦げているではないか。
「まずい、
旅人はその魔獣の名を知っていた。
「―――
旅人の叫びに、船へとしがみつく神官戦士と少年。
朗々たる呪句が響き渡った。
◇
その頃、水中。
水没した姫騎士は、なんとかして進行方向を見出そうとしていた。
どうやら魔法が破られたようだ。危うく首を取り落とすところだった。敵に強力な魔法使いがいるに違いない。急いで上陸し、
そこまで思考したところで、上方に影。
見上げた彼女の胸を、槍の一撃がえぐった。
たちまちのうちに泳ぎ去っていくと思われたそいつは、遠方で急ターン。再びこちらへと向かってくるではないか。
思い通りに動けぬ。水が重い。体の浮力とのバランスがとれぬ。何しろ肺が機能していない上に、己の生首を小脇に抱えているという悪条件だった。
それでも、2回目の攻撃を、姫騎士は受け流す。ぶつかり合う槍と槍。
たちまちのうちに泳ぎ、脇を抜けていった敵。その姿が今度はしっかりと目に焼き付く。
筋骨隆々とした肉体に羽飾りをつけ、手に槍を持った人型の怪物。折れた鼻に醜悪な面構えのそいつは
情勢は圧倒的に、姫騎士に不利だった。このままではやられる。
だから彼女は覚悟を決めた。敵を真正面から迎え撃つ。
身構えた姫騎士。そこへ、次なる一撃がやってきた。
◇
水中を自在に泳ぐ
水面にでる。息継ぎ。再び潜る。大きく旋回しつつ敵へ向き直る。
突進。
突き出した槍。以前の戦で
それは、敵の胸板を貫いた。武器を手放す敵手。
勝った。あとは電気鰻どもが残る敵を始末してくれるのを待てばよい。
勝利を確信した彼の目の前で、女はニヤリと笑った。どころかそいつは水底を踏みしめるとこちらに突っ込んでくるではないか!
咄嗟に槍を手放さなければ、
慌てて距離をとる。大丈夫、奴は追いつけぬ。水中では槍を投げることも出来まい。
この場より逃げようとした
───ぐはぁっ…!?
息が漏れる。水が入ってくる。死ぬ!
動きが取れなくなった
◇
水面へと投げ込まれた一撃。強烈な火球の魔法は凄まじい威力を発揮した。莫大な熱量と、そして衝撃波を放ち、水中の敵勢をショック死させうる威力を発揮したのである。
それで済まなかった。
強烈な破壊力は、水面を航行する舟にも襲いかかった。すでに多数の矢傷を受け、損傷を受けていた舟へと。
船体は揺さぶられ、そして乗員たちは投げ出される。体を固定していなかった
「おい!?」
咄嗟に伸ばされた、神官戦士の腕。少年へと向けられたそれは空を切る。
河の流れは、すべてを運び去っていった。
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