ペトロブレスは吐かない(ゲームシステムが違う)

雄鶏コカトリスは荒野に住まう。

何故ならば、彼らの嘴は触れるものを片っ端から石化してしまう。仮に草むらにいれば、前進するだけで細長い石が林立し、行く手を阻むことになるのだ。それはあまりに不便に過ぎる。

だから、雄鶏コカトリスはなるべく他の生物がいない場所に巣を作る。

これは言い換えれば、生物の豊富な場所を歩いた雄鶏コカトリスはその痕跡を残して行く、という事でもあった。


  ◇


陽光が降り注ぐ山裾。

村から出てすぐのあたりを進んでいるのは狩人ら村の男たちと、そして少年。手に手に弓やあるいは槍、石斧などを持ち、芸香ヘンルーダをたっぷりと食べてきた。

彼らは雄鶏コカトリス討伐部隊であった。罠が駄目なら駆り出そうという魂胆である。

手がかりを見つけたのは狩人だった。石化していた草が点々と残っていたのを発見したのだ。これは雄鶏コカトリスの仕業に違いあるまい、となったのである。

だから後は追跡し、奴を始末する。それだけのはずであった。芸香ヘンルーダの効力は1日は持続するはずだから、それまでに片をつけたいところである。いかに弱いとはいえ毒性のあるものを延々と食べ続けたくはない。害のないようなごく微量なら薬や調味料にも使えるのだが、その量だと石化を防ぐのに十分足り得ないのだ。

「毒にならない薬はないのさ。何事も適量ってもんがある」とは薬師の言。

そんなわけで、村の狩猟担当者たちが進んだ先。岩が多い山の中腹である。

「もう、石化した草が見当たりませんね」

「ああ。ここからは手分けしよう。大丈夫だとは思うが油断はするな」

少年の言葉に頷いた狩人は、皆に散開の指示を出した。


  ◇


「しかし、雄鳥コカトリスって雄しかいないのかね?」

「なんでも雄鳥が産んだ卵をヒキガエルが温めると生まれるとか」

「はぁ。さすが魔獣だな…」

狩人の疑問に答える少年。姫騎士の受け売りである。

まぁ、石化の魔力さえ封じてしまえば所詮ニワトリである。しとめること自体は簡単だろう。

そう思っていた矢先。

「逃げたぞ!」

叫びが聞こえてきたのは岩場の上の方。別の班が捜索に当たっていたはずである。

二人もそちらへ駆け出した。


  ◇


岩場の合間から延びている蛇の尾。雄鳥コカトリスのものであるそいつを発見した猟師は、慎重に矢をつがえた。一撃で仕留めるつもりだった。

慎重に。本当に慎重に狙いを定め、そして。

矢が、放たれた。

それは正確に、魔獣の尻へ突き刺さる。

が。

「───浅い」

致命傷とならなかった一撃。それに驚いた雄鳥コカトリスは、ねぐらから飛び出した。

どころかそいつは、こちらへと向かって来るではないか!

迎え撃つべく石斧を構える猟師。

彼の一撃は、空を切った。

驚くべき敏捷性を発揮した怪物は、嘴の反撃を加える。しかし猟師は芸香ヘンルーダを食べている。魔力は及ばぬ。

だから彼は、振り返り、脇を抜けた雄鳥コカトリスを追撃した。

いや。しようとして、自分が動けなくなっていることに気が付いた。

彼の身に付けていた皮の衣類。それが、石化していたから。


  ◇


岩場を駆けあがる狩人たち。ちょうどその眼前を、問題の魔獣は横切ろうとしていた。尻からは矢が一本生えたままだというのに異様に素早い。

飛びかかった狩人をジャンプしてかわし、少年が投げつけた槍をひらりと交わした雄鶏コカトリスは、そのまま翼を広げた。

―――飛んだ!?

よく考えれば短い距離ならば鶏も飛べる。その血を引く雄鶏コカトリスが少しばかり飛べてもおかしくはない。

咄嗟にそいつへとジャンプした少年。彼の手は、魔獣の胴体へと届く。

―――やった!

そのまま地面に着地―――しない。

彼の肉体は、宙に飛び出していたから。


  ◇


「―――おい!?」

岩場から飛び出した少年。それを目の当たりにし、岩棚から身を乗り出した狩人は、見た。

手で魔獣をがっしりと掴みながらゆっくりと下降していく少年の姿を。

彼は、落下制御フォーリング・コントロールの秘術を咄嗟に唱えたのだ。

こうして村を震撼させた雄鶏コカトリスは、無事退治される運びとなった。


  ◇


なお、退治された雄鶏コカトリスは食卓に供された。

その肉は中々に引き締まっていて美味かったという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る