目には目を歯には歯を(しかし美人のデュラハンを投入してくる甲斐性のある敵は早々いない)
狭い海だった。
半島の先端部と、大きな島とに挟まれた地形。東西よりの潮流と時間帯により変動する風。これらを読めなければ自在に機動することはできぬ。
ゆえに、闇の種族側は帆を畳んでいた。櫂による自在な機動を生かすために。
それらの様子を上空より俯瞰していた使い魔のフクロウ。その視点を借りていた
敵はどうやら魔法使い。魔獣と、そして首のない女を従えているように見える。
───まさか人間どもの間者だったとは。
まんまと足下にまで入り込まれた怒りはある。
だが、すでに戦いは始まっている。前方からは人の類の艦隊が迫りつつあるのだ。小舟一隻に関わってばかりはおれぬ。
故に、彼は命じた。
「魔獣どもを放て!」
◇
闇の種族同様、北岸諸国の船団も戦端が開かれたことを把握していた。
女占い師らの姿を魔法で確認していた太守はニヤリと笑う。
「気の早い。もう始めたか。負けてはおられぬな」
つぶやいた彼は、配下へと指示を与えた。乗船している魔法使いの戦士たちに対して、乗馬を命じたのである。
胴鎧と兜で四肢以外を守った彼らは、舷側より次々に海へと飛び込んでいった。
いや。
戦士たちが沈み込む寸前、体を支えたのは、馬。
しかしその下半身。胴体の半ばからは巨大な魚となっていた。
魔法で生み出された幻獣たちだった。
馬と魚が交わって生まれた彼らの名を
手に手に銛と投網を持った戦士たちは、魔獣による攻撃から船を守る要だった。
彼らだけではない。人の類に組する魔法使いたち。彼らの流派は様々であったが、手懐け、あるいは支配した水棲の魔獣・幻獣たちが水面下の脅威から船団を守る。
両軍の本隊が、まもなく激突しようとしていた。
◇
自ら囮となり、敵船の左舷へと
敵は大きい。回避の必要があった。とはいえ船に生き物ほどの敏捷性は期待できぬ。
だから彼女は、精一杯できることを行った。
「何かに掴まって!」
女海賊と共に帆柱に抱き付いた直後。
衝撃は、来た。
◇
───なんだ、こいつは!
持ち上げられた船上。必死で帆柱にしがみつく女海賊は、敵の底知れぬパワーに驚愕していた。船を軽々と十メートル近くも持ち上げ、そして放り投げたのである。転覆の運命を免れたのは、咄嗟に女占い師が呼んだ波に支えられたおかげだった。
揺れる船上から見上げる女海賊の視線。
その先で、敵は鎌首をもたげていた。
白い。鱗に覆われ、四肢を持たぬその体は蛇にも似ている。だが比べ物にならぬほど大きい。おそらく
「
傍らの魔法使いが、そいつの名を呟いた。
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