この人村娘だったよーな(村娘過激派)
火矢が、夜空を切り裂いた。
一本だけではない。何本ものそれは、味方への合図である。
敵艦隊を発見したとの斥候による報告に、北岸諸国の連合艦隊は色めきだった。夜戦である。
元より覚悟はしていたものの、太陽神の加護がない時間帯に決戦を強いられた人間たちの不安は大きい。
こうして、海戦が始まった。
◇
味方連合軍へと敵との接触を伝えた斥候。すなわち女占い師が指揮するロングシップは、敵艦隊の間近にいた。気付いた時にはすでに接近されていたのである。
ロングシップの漕ぎ手は10あまりの骸骨兵。白骨死体に雑霊を封じ込めたこの魔法的怪物は、今回の戦にあたり女占い師が事前に作り上げたものだった。元が船員の死体なため、操船能力は高い。
そして、弓を構え、鎖帷子を身に着けた首のない女。合図の火矢を放ったのは彼女である。その生首は女占い師が抱えている。
彼女らの脇に置かれ、布を取り払われている火元はくりぬいたカブから創り出された
船の横には術を解き、隼から怪物の姿へと戻った
これが、ロングシップの全戦力だった。
「さあ。役目は果たしました」
「……ぉ」
後退するか?という問いに女海賊はかぶりを振った。更に、
「一番槍の栄誉は貰いましょう?私たちだけの方がやりやすいわ」
違いない、と苦笑する一同。今、この船には人間が一人も乗っていない。船自体の性質も異なる。味方艦隊の主武装は衝角だが、ロングシップにはそんなものはなかった。乗員自体が武器なのだ。それも、すこぶる強力な。
軍議を終えた一同は、敵の真正面へ躍り出た。
◇
闇の軍勢の船団。その先鋒を行く軍船の一隻は、慌ただしい雰囲気に包まれていた。
先ほど上がった火矢のためである。敵の合図に違いない。
甲板上には戦闘員が配置され、手に手に弓矢を構え、あるいは弩砲を準備していた。火矢を放つために松明も灯されている。
射手の一人であるところの
そして、船体中央付近にてあぐらをかくローブの人物。彼女がフードを降ろした姿は、黒い肌。
だから、
―――GUOOOOOOOOOOOOOOO!!
敵だと確信してからの彼の行動は早かった。ローブの人物目がけて矢を放ったのである。
命中する。
その刹那、割り込んできたのは目玉。青い縁を持ち、水色の瞳が描かれた円盾が、矢を阻んだのだった。
そして、円盾が退いた時。
そこに胡坐をかいて座っていたのは、先とは異なる姿。
白い。いや、色のない、それでいて驚くべき美しさを備える、紅の瞳を持った女であった。
それを目の当たりにしたのは
しかし、それはいかほどの痛痒も与えはしない。色のない女への攻撃は盾に阻まれるし、骸骨どもにはそもそも矢が突き立つべき肉が備わっていないからである。
埒が明かぬ。
故に、指揮官は最大火力を投入した。
何匹もの
射撃準備が完了し、照準に入る。
台座に据え付けられた巨大な弓。そのような姿を持つ
もちろん不死の怪物である首のない女には通用せぬであろうが、問題ない。軍船の舷側は高い。それはすなわち敵船の上から射撃できるという事である。甲板構造を持たぬ敵船であれば、船底を破る事もできよう。
「狙え!!
―――放て!!」
指揮官の号令。
放たれる
―――その刹那。
割り込むように振るわれた剛剣によって弾き飛ばされる。首のない女が抜き放った刃。それが、斬り飛ばしたのであった。
恐るべき技量。
愕然とする軍船側。しかし、彼らが呆然としていたのはほんの一瞬である。あのような芸当をいつまでも続けられるはずがない。
だから、指揮官が第二射の準備を命じた時。
そちらへと駆け寄った彼は、見た。狂ったように巨大な斧を振り回す、鱗に覆われた異様な女体を。
たちまちのうちに船が傾き始める。女によって開けられた大穴からの浸水であった。
船を救う術はない。
投げ出された
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