数は力だよ!(ゴブリンが怖いのもその辺)

長大な海岸線。

夕日が照らす岸部へと乗り上げていくのは多数の軍船や輸送船である。

そこから続々と降りてくる中で最も多いのは折れた鼻、黄土色の肌を持った醜悪な面構えの小鬼ゴブリンども。

そいつらを監督するのは大柄な小鬼ゴブリン。すなわち大小鬼ホブゴブリンや、羽根飾りをつけた小鬼祈祷師ゴブリンシャーマン、完全武装し明らかに動きの異なる小鬼王者ゴブリンチャンピオンたち。

そして、巨鬼オーガァ。小屋ほどもあるこの怪物を運ぶのは船でも相当難渋したことであろう。小振りな頭部と肉厚な肉体がアンバランスである。

そして、ローブに黒い肌の美しい容姿は闇妖精ダークエルフ。彼ら闇の軍勢の支配者たちだった。

他にも様々な種族がいるが、彼らはいずれも邪悪な欲望を充足させるべくこの軍勢に参加していることは想像に難くない。食欲。女。財宝。殺戮。

何百という船は、それでも出航時からすれば二割近くが失われている。嵐と、そして商業都市の軍による攻撃によって。

それですら、ここに残るのは膨大な数であった。衝角攻撃は無限に繰り返せるものではないからだった。船体にも著しい負担がかかる。

船を降りた軍勢が設営しているのは野営地であった。先の嵐で痛めつけられたら彼らに必要なのは、休息である。

その光景を見ていた者は数多い。海鳥。魚。亀。虫。

そして、人間。

地形に身を潜めた人の類の斥候たちは、敵軍がいまだ健在であることに恐怖していた。大打撃を受けているはずにも関わらず、健在であるようにしか見えなかったのだ。

その後も彼らは監視を続け、そして夜が訪れた。


  ◇


夜の白い砂浜。

そこへ停泊する多数の船舶と、その合間にて野営する人間たちの姿があった。

夜風の寒さから身を守るためか、彼らはマントに身を包み、火を盛大に炊いている。

近隣諸国の軍船が集結しているのだった。

ここにいるのが全てというわけではない。だが大軍には違いなかった。

彼らの装備は兜に盾。槍。そういったものが多い。補助武装として小剣。射撃武器は投石紐である。彼らの一斉射撃は密集隊形の敵軍を粉砕しうるのだ。

鎧を身に付けている者は少ない。防御は兜と盾に依存する。履き物はサンダルである。

これが、内海北岸諸国の市民軍の一般的装備だった。

他にも、ローブの魔法使いや弓を携えた森妖精エルフの射手。斧と鎧甲で身を守る岩妖精ドワーフらの姿もある。

かと思えば土人形ゴォレムなどの魔法生物もうろついているし、焚き火を共に囲んでいるのは太陽神や火神の神官たち。

そんな彼らの中心に、商業都市の軍勢はいた。緒戦で敵に痛手を与えた、魔法使いを主力とする異色の戦士たちである。

彼らを率いる太守は、一族の者でもある戦士たち。そして治める都市の市民らからなる兵団と共に鍋を囲んでいるところだった。

先の攻撃では大変な戦果をあげることができた。犠牲者もほとんどいない。士気は高かった。

もし船の数が足りていれば闇の軍勢を撃滅する事もできたやも知れぬ。

しかし、現実には戦力は有限だった。精一杯投入できた船団の総数が30。やむを得ない。一国の力には限界がある。

だからこそ、ここに近隣諸国の総力が結集したのだった。

魔法戦力の総数では敵軍に劣っている人の類の軍勢であるが、頭数では渡り合えるものは揃った。

後は神の加護を祈るのみ。

英気を養っていた彼らは、ほどよい緊張状態でもあった。

だから浜へと、見慣れぬ優美な船舶。北の民ウィーキングのロングシップが近付いてきたときの動きは大変機敏であった。

奇怪な船だった。漕ぎ手は十を超える数の骸骨。船首に立っているのは鎖帷子を身に付けた首のない女であり、中央付近にはローブにフードの人物が佇んでいた。

そちらへと咄嗟に武器を構えた男たちは制止された。盟主である太守によって。

「落ち着け。あれは味方の魔術師だ」

皆が見守る中、ロングシップは砂浜へと乗り上げる。

そこから降り立ったローブの人物はフードを跳ね上げ、この場に集うすべての者たちへと一礼した。

「ただいま帰還いたしました。軍団への合流を許可願います」

「許可する。

さあ。冷えたであろう。火に当たるがよい。そして、南岸ではなにが起きていたか、皆に話してくれ」

「はい」

フードの人物。色を持たぬ女占い師は、雇い主であるところの太守へと頷いた。

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